保険の意義と機能
保険とは、一体どういうものでしょうか、この保険の本質については、古くから学者、専門家の間で議論の分かれているところで、今日でもいまだ定説といえるものはないようです。
また、その捉え方においても、社会学的、経営学的、経済学的、法律学的など各視点によっても異なりますから、一口に「保険」といっても、それが保険制度を意味することもあれば、保険団体を指すこともあり、さらに、保険経済活動や保険契約を指す場合もあります。いずれにしても、実際的、具体的には、これが何を指すか、きわめて曖昧な用語として用いられています。
保険学説は、非常に多岐に流れていますが、現在、その代表的な学説は、世界最古で今なお支持者の多い「損害てん補説」と、主としてドイツおよび日本において多数の賛同者のある「入用充足説」でしょう。
損害てん補説は「保険とは、当事者の一方が一定金額の約因で、他方がさらされている危険に対し、またはある事故の発生に際してん補することを引受ける契約である」というもので、要するに、保険事故の発生によって具体的に生じた損害をてん補する制度であるというものです。
この損害てん補説は、損害保険のみが発達していた時代には、「損害分担説」(保険を偶然の事故による損害を同様の危険にさらされている多数者が分担する制度とする説)とともに、非常に隆盛でしたが、その後、生命保険その他の定額保険が現われるようになってから、これらの説ではその説明に窮するようになりました。
そこで、新たに誕生したのが「入用充足説」です。この説によると、「保険とは、同様な危険に脅かされる多数の経済の偶発的な見積りうべき金銭入用の相互的充足である」というもので、損害てん補説などの不備を補おうとしました。しかし、生命保険では、別に具体的な入用を生じていなくても、保険事故である死亡または一定年齢までの生存が認められれば、所定の保険金が支払われるわけですから、入用充足説でも、これを十分説明できたとすることはできないでしょう。
そして、今日では、保険事故発生の可能性があることによって常に不安にさらされている人なり法人なりに対して、事故発生時に、ある金額を支払うことを約することによって、その経済生活の不安を除去または軽減する事前的な準備ないし配慮の制度であるという説が強くなってきているようです。
このように、損害保険と生命保険とに通ずる統一的な定義を求めることは、なかなか困難なため、それを別々に定義づける学者もいます。外国の保険契約法も、特に定義規定を設けている場合は、それぞれ別個に定義づけているのが通例のようですし、日本の商法も、この方法を採用しています。
ところで、保険というものは、過去の実績から将来の危険を推測し、統計学でいう大数の法則に従って運営するものです。
この「大数の法則」とは、「多数平均化の法則」ともよばれ、ベルヌーイやコルモゴロフなどによって導かれた確率論上の法則です。これを簡単に説明しますと、観察の数が増えるほど、ある事象の頻繁度は、その確率に近づくというもので、たとえば、正しく作られたサイコロを何回もふると、1の目の出る割合は、サイコロをふった全回数の6分の1に近づきます。
つまり、火災とか死亡など特定な出来事を問題とする場合、それを個々的にみますと、それが偶然的であり不可測的なもののようであっても、これを大数的に観察すれば、一定の期間内にその全体について発生する度合いが平均的にほぼ一定しているわけです。したがって、過去の経験、実績や資料により観察することによって、将来におけるその発生の蓋然率を予測することができます。
保険は偶発的な危険にさらされている多数の経済主体が共同して必要な金額(保険料)を出し合い、その総額がほぼ全体の所要額(保険金の総額)をまかなうのに過不足のないように定め、経済主体は、それぞれ僅少額を負担することに
よって、事故発生の場合にその損害をカバーするある程度の額の反対給付(保険金)を受けられるようにして、各自が経済生活の不安定を除去あるいは軽減しようとするものです。
保険会社がね保険事故に際し被保険者にする損害てん補と不法行為者または債務不履行者の負担する損害賠償とは、現象面において非常によく類似しています。保険の本質を損害のてん補そのものにあると考えるならば、両者の性格は同質といえましょう。しかし、保険の損害てん補を危険負担の実現方法であると解して、その範囲を原則として損害額のてん補に必要な額に限定したものとする見解に従えば、損害賠償のてん補と同質とはいえないことになります。
実質的内容をみると、保険による損害てん補の場合は、必ずしも保険事故によって生じた一切の損害をてん補するものではなく、約定の被保険利益について生じた約定の範囲の損害について保険金を支払っており、これで足りるものとされています。
ところが、損害賠債の場合には,損害発生直前の状況に復元することを本旨としますから、不法行為や債務不履行によって生じたと認められる全損害におよびます。
したがって、保険の実務においても、損害賠償のてん補の場合とは異なった解釈や運用がなされることが少なくおりません。しかし、他方において、損害のてん補そのものを保険の本質とする損害賠償理論を適用している場合も少なくありません。現在のところ、理論的にも、実務的な取扱いにおいても、必ずしも明らかでないというのが実情のように思われます。
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