強制保険金の消滅時効
私の父は、二年半ほど前交通事故にあい死亡しました。その後加害者と話合いをしていましたが、私が若年であったことと、母の病気などでゴタゴタしているうちに時を経過し、示談がまとまらぬまま最近被害者請求をして強制保険金の払下げを受けようとしたところ、時効がきているからダメだと断られ、途方にくれています。今後どうしたらよいでしょうか。
交通事故の損害賠償請求権についても、消滅時効というものがあります。
この消滅時効とは、一般に、一定の事実上の状態がある法定の期間続いた場合に、真実の法律関係にかかわらず、その永く続いてきた事実関係を尊重して法律効果を与え、その権利の消滅の効果を生ぜしめることをいうのです。
ところで、被害者からする強制保険金に対する直接請求権および仮渡金請求権の消滅時効は、損害ならびに加害者を知ってから二カ年です。したがって、その二年間をぐずぐずして過ごしてしまうと、もはやその権利が失われ、強制保険金の請求をすることができなくなってしまいます。
しかし、本問の場合には、加害者に対して損害賠償を請求することができます。なぜならば、一般に不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知ったときから三ヵ年だからです(なお、その損害や加害者を知りえなかった場合でも、不法行為の時から二〇ヵ年を経過すると賠償請求権は消滅します)。したがって、自動車による場合でも、被害者は、三ヵ年間加害者に対し賠償請求権をもっています。本問の場合、まだ三ヵ年は経過していないようですから、直ちに相手方と折衝し、もし示談ができないときは、信頼できる弁護士に依頼して裁判所に損害賠償請求の訴訟を起こしたらよいと思います。
また、たとえ三ヵ年を経過しているときでも、相手方がその時効の利益を援用しないかがり(つまり相手方が時効だから支払う義務がないと主張しないかぎり)、損害賠償を請求することはできます。もっとも、その場合には、相手方が「時効にかかっているから支払わない」と一言いえば、それで終わりです。
つぎに、消滅時効完成前に、調停申立または裁判上の手続をとれば、時効は中断し、それらの手続の終了したときから改めて三年の時効が進行を始めることになります。
また、加害者が賠償義務を認めたときも、時効が中断します。ほっておいて時効期間がすぎてしまいそうなときには、内容証明郵便で請求(催告)をしておきますと、六ヵ月はかりに時効を延ばすことができ、その間に裁判所の手続をすればよいことになります。いずれにしても、損害賠償や強制保険金の請求には、時効がありますから、できるかぎり早く措置をとる必要があるわけです。
なお、これに対し、被保険者(加害者側)が自ら賠償金を支払って、保険会社に保険金を請求する場合には、本来は、一般の保険金請求権についての二ヵ年の時効機関が適用されることになります。ただ約款によれば、被保険者は、被害者と被保険者間に損害額が確定した日から三〇日以内またはその会社が承認した猶予期間内に、賠償金支払いを証明する書類その他必要な書類を添えて保険金を請求しなければならないことになっています。
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