強制保険と損害賠償との関係
私は、交通事故の加害者ですが、被害者がとても欲ばりな男で、強制保険金を受けとっておりながら、損害賠償はこれとは別個だからといって医療費その他を請求します。私は、強制保険の支払いを受ければ、もう損害賠償請求権はないものと思いますが、どちらが正しいでしょうか。
この場合は双方とも間違いです。
自賠法は、自動車事故によって人、が死傷した場合において、被害者保護の見地からその三条に損害賠償責任に関する民法の不法行為の制度についての特別法を設けています。しかし、それは責任の要件を重くしただけであって、賠償額の計算方法は民法上の不法行為による損害賠償の場合と変わりありません。他方において、自賠法は、自動車事故による損害賠償を直接かつ現実的に保障するための方法として自動車損害賠償責任保険制度を創設し、自動車一両ごとに強制的に責任保険契約を締結させて、被害者の損害のうち一定限度額までの分は、保険によって支払いが受けられるものとしております。そして、その保険金の支払いについては、第一に、加害者側がまず被害者側に損害を賠償し、つぎに賠償した加害者側(被服論者)が自己の支払をした限度において保険会社から保険金の支払いを受けるという方法をとり、第二に、被害者の便宜のために同法一六条によって被害者側が保険会社に直接請求しうることとしています。
このような法の趣旨からして、自賠法三条の不法行為にもとづく損害賠償請求権と自賠法にもとづく保険会社に対する保険金請求権との関係を見ると、保険金の支払いが、具体的に算定された賠償領よりも少ないときは、本来の賠償額からその保険金を控除したものが賠償として与えられることになります。すなわち、被害者が保険金の支払いをうけたときは、その限度において被害者の財産上精神上の損害賠償請求権は消滅するわけです。したがって、本問における被害者のいうように、強制保険金と損害賠償金とは別個のものではありませんが、また、被害者が強制保険金を受領したからといって、損害賠償請求権が全くなくなるというものでもありません。要するに、保険金の支払われた範囲で相手方の損害賠償請求権は消滅したわけですから、本来の賠償額が支払われた保険金より多額のものであれば、その超過分だけは、支払わなければならないわけです。
つぎに、強制保険金がまだ給付されていない場合には、この保険金給付が予定されているとしても、その段階では、被告(加害者側)の原告(被害者側)に対する賠償義務に対して何らの影響を及ぼすものではありませんから、その給付予定の金額を被告の賠償額中から控除すべきものではありません。これに対して、原告が自賠法にもとづいて保険会社から保険金の給付を受けたときは、債務の内金弁済として、被告の賠償義務がこの金額の限度においてとうぜん消滅することになります。
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