ひき逃げをされたときの損害賠償請求
自賠法は、あらゆる場合の損害を保障しているのですから、ひき逃げされて相手がわからなかったり、加害車がいわゆる無保険車であったような場合でも、被害者の損
害は何らかの形で埋められるようになっています。すなわち、このような気の毒な被害者を救済するために、政府は、自動車損害賠償保障事業により、被害者の損害をてん袖することになっているのです。
政府の自動車損害賠償保障事業は、自動車にひき逃げされて保有者が明らかでないとき。責任保険に入らなければならない義務があるのに入っていない自動車。責任保険の保険期限が経過してしまっている自動車。責任保険に入ってはいるか、まだ保障期間がはじまっていない自動車。責任保険に入る手続はしているが、保険料未納などで保険会社で責任をもっていない自動車。いわゆる構内自動車(道路上で運転しない自動車で、自動車登録原簿に登録を受ける必要のない自動車)。盗難・無断運転などで保有者に全く責任の認められない自動車。などによって、死傷した場合に適用されます。
しかし、加害車が国、指定都市、外国の外交官、駐留軍、国運軍の自動車や自家保障車であったような場合には、この保障事業は適用されません。これらの車によって被害を受けた人は、責任を負わなければならない本来の保有者に請求しなければなりません。
また、強制保険の自動車による事故の場合は、その保有者およびその責任が明らかであるかぎり、たとえ保有者が損害賠償をしなかったり、強制保険の請求手続をとってくれなかったりしても、この保障事業によって損害を請求することはできません。この場合には、保険会社に対していわゆる被害者請求をするか、裁判所に損害賠償訴訟を起こすことになります。
この政府の保障事業によって被害者が認められるのは、保障請求権であって、損害賠償請求権ではありません。しかし、保障請求権の前提要件として損害賠償請求権の存在が予定されていますので、政府は、賠償請求の場合と同様に、被害者の故意、過失などを調べて、時には救済しなかったり、いわゆる過失相殺をすることもできます。しかし、その場合の立証責任は、政府の側にあることになります。
また、この政府の保障は、保険による保障のように積極的なものではありません。つまり、どこからも救済されない被害者を救済するためのものにすぎません。たとえば、被害者が労災保険や健康保険などの被保険者として保険給付を受けられるような場合には、その方法によることになり、それで足りないときにかぎりこの保障事業によるというのが普通です。
政府保障を請求する手続としては、申請書に医師の診断書または検案書、警察署の事故証明書(これに、ひき逃げとか泥棒運転による事故であることを証明してもらいます)、死亡した者については、請求者と被害者の続柄を証明する書面(戸籍謄本、住民票謄本など)、その他支出明細書や領収書等を添付して保険会社に提出すればよいのです。
申請書には、
(1) 請求者の氏名・住所
(2) 死亡事故の場合には、請求者の死亡した者との続柄
(3) 被害者の氏名・住所
(4) 事故の日時・場所
(5) 責任保険の被保険者でない者の自動車事故の場合には、その加害者の氏名・住所
(6) 政府に対し損書のてん袖を請求することができる理由(たとえば、ひき逃げ、無保険車、泥棒運転など)
(7) ひき逃げ以外の場合には、その自動車の登録番号または車両番号(これらのないときには、車台番号)
(8) 被害者が、健康保険、労災保険、その他法律の定めるものから金額が支払われうる場合は、その給付の根拠とその金額
(9) 請求する金額とその算出基礎を記載することになっています。
この書類の差し出し先は、損害保険会社であれば、どこの保険会社でもかまいません。この保障は、本米政府の事業なのですが、これらの保険会社が政府から委託を受けて業務を行なっているのです。
なお、この政府の行なう保障事業の損害のてん補の限度額は、責任保険の保険金額と同額です。
要するに、保障事業の場合も、請求手続については、一般の責任保険金請求の場合とほとんど変わりません。
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