強制保険金の再度請求

私の息子か自動車事故でケガをしましたので、加害者と示談して、強制保険金を受領しました。ところが、その後息子はケガがもとで死亡してしまいました。この場合保険金を再度請求することができるのでしょうか。
一般的には、保険金の再度請求はむずかしいと思われます。保険会社の方でも、このような問題がおこらないようにするため、保険金交付の際に、将来の請求権を放棄する旨の文書をあらかじめ請求者から取っています。つまり、保険会社と請求者との間で、保険金の再度請求はしないという契約がとり交わされているわけです。したがって、再度請求するには、その契約が無効か取消しとなるような格別の理由がなければできないことになります。
そればかりでなく、このような権利放棄書がありますと、「交通事故の被害者および加害者が自動車損害賠償保険の査定について異議の有無を照合されて、双方ともこれを承諾したうえ、被害者は、それ以外に訴訟その他によるいっさいの請求をしない旨を約している事実が肯認されるときは、両者は、査定事務所を介して事故に伴う損害額を示談により解決したものと解するを相当とする」と判示している例もありますから、放棄書の提出は慎重にやらなければなりません。

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しかし、このような権利放棄をした場合は、いかなる場合にも再度請求ができないとすれば、本問のように不都合な場合がでてきます。したがって、前述のようにその契約を無効または取り消しうるような格別の事情があれば、再度申請が許されるとすべきです。たとえば、意思表示をするにあたり法律行為の要素に錯誤のあるような場合です。当事者双方で、被害者の傷害が全治するものと確信して、それを前提として被害者が将来の請求権を放棄したところ、はからずも被害者が死亡したり、後遺症になったりした場合は、傷害の程度に錯誤があったことになり、このような場合には、その放棄書は無効といってよろしいでしょう。
この点は、被害者が加害者から賠償の追加払いを受けるについても同様の問題があるわけです。そして、加害者との示談の結果をあとで変更できる場合には、保険金の再度請求もできるといってよいでしょう。
交通事故の場合、それが治療中には往々にしてその全損害を正確に把握することは困難です。したがって、その当時契約当事者として確認することができなかったような著しい事態の変化があり、これがため後日損害が異常に増加したような場合には、このような権利放棄の約定は効力を失うものと考えてもよいようです。いわゆる事情変更の場合であり、本問の場合も、これにあたるのではないかと思いますから、保険会社によく事情を説明し、その証明資料を添付して再度請求してみたらいかがでしょう。そして、保険会社がどうしてもこれを認めず、あなた自身納得ができないというならば、訴訟を起こして争うほかしかたがありません。

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