示談屋対策
世の中には悪い人間もいるもので、交通事故にあって不幸のドン底に落とされた気の毒な被害者や遺族をだまして賠償金を横どりし、再びこれらの人たちを泣かせる輩
も少なくありません。いわゆる示談屋とよばれる人たちに多いようです。
示談屋とは、業として交通事故の加害者または被害者から交通事故に関する示談の取りまとめや強制保険金の請求などの委任を受け、その代理として事故の相手方に対し、あるいは両当事者間に介入して、賠償もしくは請求の交渉をしたり、示談を取りまとめたり、または保険金の請求や受領などをしたりして、その報酬や費用として依頼者から金銭を受け取っている人たちのことをいいます。
この示談屋の業者数は、全国で二〇〇業者以上あるといわれていますが、規模の小さいものを含めれば実数はもっと多く、今後もますます増加する傾向にあります。その運営の態様をみますと、大部分が公共の機関とまぎらわしい名称を唱えており、つい騙されてしまうことが多いようです。また、示談屋には何らの資格制限がなく、経済的能力も必要としないので、いかがわしい者も少なくおりませんし、一般的に事業基盤が浅く、責任の所在もあいまいな場合が多いといわれています。したがって、弁護士法違反をはじめ、詐欺、横領、恐喝、背任など不法な行為をともないやすく、時によっては暴力団との結びつきや介入があって、暴行や傷害などの事件を犯す場合もあります。最近の傾向としては、休業保障費をだましとるため、偽造の休業証明書や給与所得源泉徴収票を使用したり、被害者の勤務先に真実でない書類を作らせたり、あるいは過去三ヵ月の給料を水増ししたり不当な損害賠償または保険金の請求をして、これをかすめとる知能的犯罪も多くなってきています。
もっとも、示談屋のなかにも、良心的な営業をしている業者もなくはありませんが、業者の大部分は、会員制を採用して自動車の保有者から入会金を徴収し、その代理として被害者と交渉していますから、一般的には、加害者側に立ち、法律に暗い被害者を不当に圧迫している傾向が多いのです。したがって、このような示談屋を相手方として交渉しなければならない被害者は、実に困惑するものです。また、示談屋を依頼した者も、自分の意に反するような示談をしてきたり、賠償金を横領されたり、それほどでなくても、あとあと問題を残すようなことにもなりかねませんから、示談屋には十分警戒をしなければなりません。
もし、加害者が示談屋を代理人としてさしむけて無理な話合いをしてきたら、被害者は、その旨を明確に相手方に通告し、加害者本人自身との交渉かまたは親戚、知人、弁護士など信頼すべき人を代理人に指名するよう要請し、これらの人たちと話合いをするようにしましょう。相手方がこれを聞き入れないならば、交渉を拒
否して訴訟に訴えればよいのです。つぎに、被害者側が示談屋を代理人としてきたときは、加害者はその非を被害者に説いて、他の信頼できる人を代理人とするよう要請しましょう。場合によっては、その旨を内容証明郵便で明らかにしておくのがよいでしょう。相手方がきき入れなければ話合いに応じないこともやむを得ませんし、相手方が訴訟を起こしたら、堂々と受けて立てばよろしいのです。いずれにしても、相手方が示談屋をさしむけてきたからといって、あくまでこれを相手に交渉しなければならないということはありません。
なお、示談屋がしつっこくからんできたときは警察に相談したらよいでしょう。また、弁護士法違反や刑法違反が証拠上認められるときは、告訴することもできます。
示談交渉の相手方/ 示談交渉の適格者/ 示談交渉をする場合の注意(被害者側)/ 示談交渉する場合の注意(加害者側)/ 示談交渉の書式/ 賠償金の分割払い/ 示談のやり直し/ 示談屋対策/ 当たり屋対策/ 事故仲介者の賠償責任/ 調停の申立て/ 仮の地位を定める仮処分/ 加害者が財産を隠匿するおそれがある場合/ 賠償請求訴訟/ 裁判を有利に運ぶための訴訟の準備/ 仮執行宣言と執行停止手続き/ 加害者に強制的に損害賠償を支払わせる/ 競売と転付命令/ 判決に不服のあるとき/ 強制保険金請求の手続き/ 強制保険金の被害者請求/ 強制保険金の再度請求/ 強制保険の適用除外車/ ひき逃げをされたときの損害賠償請求/ 強制保険と損害賠償との関係/ 労災保険と損害賠償との関係/ 強制保険金の消滅時効/ 任意保険金の請求の仕方/ 自動車の盗難、火災による保険金請求/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved