加害者に強制的に損害賠償を支払わせる
民事訴訟で勝訴したり、あるいは和解したことによって、被害者が賠償金取立の権限をえたのに、債務者(加害者側)が任意にその支払いをしないことが往々にしてあります。これに対し、現在、法は自力救済を許しませんから、債権者としては強制執行をしてもらうほかないわけです。
強制執行とは、国家の手によって個人の権利を満足させようとする手続で、債権者の申立により定められた執行機関(執行裁判所と執行吏)によって行なわれます。強制執行のうち、有体財産に対する差押えその他の強制執行、不動産に対する明渡し強制執行、不動産に対する仮処分執行、有体動産に対する仮差押執行などについては執行官が取り扱いますが、その他の強制執行は、地方裁判所で取り扱っています。
強制執行の手続を大別しますと、金銭債権についての強制執行と金銭償権以外の請求権(金銭の支払いを目的としない債権)についての強制執行とに分けられます。交通事故損害賠償の場合は、まず例外なく金銭直後についての強制執行といえましょう。
金銭債権についての強制執行は
(1) 有体動産に対する強制執行
(2) 不動産および船舶に対する強制執行
(3) 債権その他財産権に対する強制執行
(4) 自動車に対する強制執行
とに分けられます。そして、不動産に対する強制執行の方法には、強制競売と強制管理の二種があります。なお、このほか、仮差押執行と仮処分執行の強制執行がありますが、この両者は、通常、保全処分と呼ばれています。
強制執行の委任または申立てをするには、執行機関に、執行文(執行を許す旨の記載)の付記された債務名義(執行されるべき債務の存在ならびにその範囲を確定した公正証書)に送達証明書や確定証明書などをつけて出します。この執行文を付与された債務名義を、普通「執行力ある正本」(執行正本)と呼んでいますが、具体的にいえば、仮執行宣言付き支払命令、確定判決、調停調書、和解調書、仮差押決定、仮処分決定、公正証書の各正本などのことです。
以上述べたとおり、交通事故の損害賠償請求のように、請求権者(被害者)が、金銭債権を取り立てることを目的とする強制執行の対象となるのは、債務者(加害者)の動産、不動産などで、そのいずれを選ぶかは債権者(被害者)の自由ですから、自分で相手方の財産状態を調べる必要があります。そのためには、市町村役場などの課税台帳や登記内容、担保設定の有無などを調べなければなりません。所有権がなかったり、抵当に入っていたりすれば、もちろん何にもなりません。多くの場合は動産か不動産でしょうが、強制競売の手続をとったうえ、競落代金を配当して賠償金にあてるものですから、相当の日時を必要とします。債権その他の財産権の場合には、債権者(被害者)が執行裁判所で、債務者(加害者)に代わり債務者が第三債務者に対してもっている債権を直接に取り立てることのできる「取立命令」を付与してもらうことになります。また、交通事故の場合、その自動車が著しい破損をしていないかぎり、財産の一つとしてもっているわけですから、所有者であることを確認したら、これに対して強制執行の手続をすれば、その自動車が登録されている執行裁判所で競売してくれるわけです。しかし、相手方が悪質で、売りとばしたり、乱暴に使って値打ちをなくすようなことが考えられるときは、競売手続の際、いわゆる「監督保存命令」ないし「管理命令」をだしてもらい、執行官にその管理保管を依頼する必要のある場合もあります。
しかし、強制執行の手続は、非常に難しく煩煩で、とても素人にできるものではありませんから、信頼する弁護士に一任するのが賢明です。
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