賠償請求訴訟

私は、一年ぐらい前自動車事故で重傷を受け、後遺症があるため今日でもなお苦しんでいます。ところが、加害者が言を左右にして責任を逃れようとしますので、示談が成立しません。やむなく裁判にしたいと思いますが、どのような手続をしたらよいでしょうか。
このように、相手方と示談ができないときは、最後の手段として裁判で争うほかありませんが、交通事故の損害賠償訴訟は、なかなか難しいものですから、専門家である弁護士に依頼されるのがよいでしょう。
訴を提起するには、原則として裁判所に訴状を提出しなければなりません。この「訴状」とは、原告(被害者側)、被告(加害者側)の両当事者間において争われている権利関係の主 張の当否について裁判所に対して判決を求める申立てを記載した書面で、これに記載する事項としては、必要的記載事項と任意的記載事項とがあります。
必要的事項とは、訴状としての適法要件を具備するために不可欠の事項で、当事者の表示(判決を求める者および判決を受ける者が誰であるかということ)、法定代理人の表示、請求の趣旨(原告がその訴でどのような趣旨の判決を欲するかということ)および請求の原因(その請求がどんな請求権にもとづくかということ)などがこれにあたります。また、任意的記載事項としては、普通、事件の表示(訴名)、訴訟代理人の表示、訴額、貼用印紙額、予納郵券額、攻撃方法、付属書類の表示および年月日、受訴裁判所の表示などがあげられます。
以上の記載があれば足り、必ずしも一定の書式というものはありませんが、通常の場合の書き方や順序は大体きまっており、地方の裁判所のなかには交通事故の訴状に一定の書式を採用しているものもあります。
この訴状は、原本および被告の数に応ずる謄本(副本)を提出する必要があります。訴状用紙は、できるかぎり日本工業規格C列四番の用紙を二つに折ったものまたは同規格B列五番の用紙を使用することになっています。ただし、図面、統計表その他これに準ずるものについては、このかぎりではありません。

スポンサーリンク

訴状には、訴額(訴訟物の価額で、損害賠償請求事件では、賠償請求額)に応じて定められた収入印紙(訴状貼用印紙)をその上部欄外に貼付するのが通例です。貼用枚数の多いときは、訴状表題部の前に台紙を付け、これに貼付するのが適当でしょう。なお、この貼用印紙の消印は裁判所がやりますから、当事者はこれに消印しないよう注意が大切です。
訴状ができあがったら、これを被告の普通裁判籍所在地の裁判所の受付係に提出します。
では、原告側として、訴訟提起の際どのような点について検討し、どのような準備をしておけばよいでしょうか。主要なものを列挙しますと、
原告と被告の特定。まず原告を誰誰とするか、誰を相手方(被告)とするかということは、やさしそうで実は大変むずかしいことです。たとえば、妻が事故死した事件で、こどもが二人いるのに夫のみが原告となったため、その遺産相続による損害額について法定の三分の一の相続分にあたるものしか認められなかった事例や、加害運転者のみを相手方とし、その使用者を被告としないため、判決を得ても実質的には賠償を得られなかったりした事例があります。
請求原因の明確化。請求原因を何にするかを明らかにする必要があります。つまり、民法七〇九条による不法行為責任か、同法七一五条による使用者責任か、それとも自賠法三条による自動車運行供用者としての責任かなど、そのいずれを問うかを明らかにし、それにしたがって立証方法も考えなければなりません。
事実関係と証拠の照合。事実関係をできるかぎり調査し、その証拠を収集し、事故原因について科学的な検討を行なう必要があります。死亡事故などで事故当時の情況がよくわからないときは、刑事記録を参照することです。その刑事被告事件が終結したものは、誰でも訴訟記録を閲覧できますが、現在公判審理中の場合には、裁判所に取寄せ申請をします。検察庁が捜査中または不起訴処分となった記録についても同様です。もっとも検察庁では、これを拒むこともありますが、民事事件の証拠決定にもとづいて不起訴記録の送付方の嘱託があれば、公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合には、これに応じてくれるのが普通です。
請求賠償額の確定と立証。つぎに、損害の内容および範囲を十分検討し、損害額を積極損害、消極損害、精神的損害の各分野ごとに計算します。そして、領収書、支払額などの証拠を整えます。主張はしたが証拠を提出しないため認定されなかったり、はなはだしい場合には、準備不足や原告の主張が矛盾していて裁判官の心証が得られず、七〇〇万円も請求して一円もとれなかった事例もあります。
賠償額は、必ずしも被害額の全部を請求するものとは限りませんし、その内金を請求する場合も少なくありません。しかし、内金請求の場合、その項目内訳を明らかにしないと損をすることがあります。また、請求額が少ないため、裁判所が非常に多額な損害額を認めながら、少ない請求額しか取れなかった事例は非常に多く、なかには、あからさまに、「請求額は認定額より少額であるから、その損害額は、原告主張の額であると認定せざるを得ない」旨判示している例もあります。もちろん、損害賠償の請求は、あくまでも損害の賠償を求めるのですから、いわゆる便乗請求をして、これで金もうけをするということはできませんが、あまり控え目にするのも考えものです。
賠償額の範囲および計算方法は、比較的むずかしく、裁判所から「以外にも物的損害のあることは窺われるけれども適格な立証がないので認め難い」といわれたり、「計算方法は正しいが、計算違いがある」などと指摘されたりします。したがって、その計算は注意深くする必要があります。

示談交渉の相手方/ 示談交渉の適格者/ 示談交渉をする場合の注意(被害者側)/ 示談交渉する場合の注意(加害者側)/ 示談交渉の書式/ 賠償金の分割払い/ 示談のやり直し/ 示談屋対策/ 当たり屋対策/ 事故仲介者の賠償責任/ 調停の申立て/ 仮の地位を定める仮処分/ 加害者が財産を隠匿するおそれがある場合/ 賠償請求訴訟/ 裁判を有利に運ぶための訴訟の準備/ 仮執行宣言と執行停止手続き/ 加害者に強制的に損害賠償を支払わせる/ 競売と転付命令/ 判決に不服のあるとき/ 強制保険金請求の手続き/ 強制保険金の被害者請求/ 強制保険金の再度請求/ 強制保険の適用除外車/ ひき逃げをされたときの損害賠償請求/ 強制保険と損害賠償との関係/ 労災保険と損害賠償との関係/ 強制保険金の消滅時効/ 任意保険金の請求の仕方/ 自動車の盗難、火災による保険金請求/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク