示談交渉の適格者

日本では、普通、示談に当事者がやるものと考えられているようですが、必ずしも当事者でなければならないというものではありません。
当事者の一方が気が弱かったり、法律の知識に弱かったりしますと、どうしても相手方の力に押しきられがちです。また、口下手であるとか、仕事の関係上他人に依頼したいときもあるでしょう。外国では、たいてい弁護士か保険会社の人が折衝にあたっており、当事者が直接交渉することは少ないようです。当事者同士だと、どうしても感情的になりますから、代理人が交渉する方がかえって示談を円滑に運ぶことにもなります。

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示談の交渉を誰にやってもらうのが一番よいかということは、非常に大切な問題です。すべて交渉ごとは、その任にあたる人によってまとまることもあり、まとまらぬこともあるからです。また、同じまとまるにしても、その結果に大きな開きができます。もちろん、誰でも、自分の方に有利にまとめてくれることを望むでしょう。
示談を依頼する場合、その最適任者はいうまでもなく弁護士です。弁護士なら、交渉に慣れていますし、最大限依頼者に有利に事を運んでくれますし、また、あとあと問題を残すようなまとめ方はしないでしょう。次は、会社の総務課長とか庶務課長といった人たちです。このような立場の人は、自動車事故の取扱いになれていますし、書式の書き方なども心得ているのが普通です。会社勤めでない人は、町会長とか市町村議会の議員といった人たちに依頼することが多いようです。これらの人たちは、世間に明るく、話をまとめることが上手です。
一般的には、職業のいかんを問わず、交渉の適格性のある人、性格的に明るく落ちつきがあり、感情的にならない人を選びましょう。そして、交渉説得に慣れた人がよい結果を生みます。もちろん、法規に明るい人が身近にいれば、これにこしたことはありません。
示談交渉の適格者の条件としては、一般的にみてつぎのような事柄があげられます。これらの条件の多いほど適格性があることになります。
誰からも信頼を受けうる人。教養と社会的地位があり、円満な人柄で、社会から人格者として認められていれば申し分ありません。
交渉説得に慣れた人。事故の交渉はなかなかむずかしいものですから、話を上手に運ぶ人が望ましいわけです。その意味で、職業として交渉に慣れている人や年配の人が適当です。
交通法規に明るい人。交通事故の交渉である以上、交通法規や過失の有無程度が問題とならざるをえないでしょう。法規に明るいことが話を有利に導くもととなります。
感情的にならない人。話合いをまとめるには、辛抱してよい聞き手となり、相手の立場も理解する必要があります。短気ですぐ感情的になるような人は、一般に交渉ごとには向きません。
あまり仕事に忙しくない人。交渉は、普通長くかかりますから、仕事に非常に忙しい人は、交渉の機会を失いやすく、また、どうしても早くまとめようとしがちになり、結果的にうまくいかない場合が多いようです。お互いに十分に話し合うだけの時間と心のゆとりのある人でなければなりません。
話合いの結果を書面に整理できる人。交渉は、最終的には示談の内容を書面(示談書)にしなければなりませんから、それができる技術をもった人が必要です。
親身になって努力してくれる人。交渉は、積極的にかつがまん強く押し進めていかなければなかなか成功しませんから、その努力は大変なものです。よほど好意をもった人でないと途中でさじをなげるおそれがあります。そこで、できるかぎり親しい間柄にある人がよいことになります。
交渉を他人に依頼するときは、次の事項に注意する必要があります。これを怠ると、示談がうまくまとまらなかったり、まとめてもあとに問題を残したり、思わぬ損失を蒙ったりします。
委任の内容や妥協点をあらかじめはっきりさせておくこと。これを怠ると、自分の考えていた点と大きく食い違ったり、代理人が意思決定権をもたないため、即答ができないで妥結しかけた話をこわしたりします。
交渉する人は一人に限定すること。話合いにいく人が入れかわり立ちかわりして特定しないと、話の内容がチグハグになり、相手方の信頼を失い、話がこじれる場合が多いようです。また、多数のときは、互いに責任を回避しやすくなります。どうしても多数の人に依頼しなければならないときは、話合いのときに同席してもらう必要があります。
いわゆる示談屋に頼まないこと。示談屋に領むと、費用がわずかですかように考えがちですが、賠償金のピンハネをしたり、ひどいのになると全額を横領する者もあります。あとあとめんどうなことになる場合が少なくありませんから、示談屋には依頼すべきではありません。
当事者として当然やらなければならないことは自分自身ですること。たとえば、加害者の場合の見舞とか葬儀の参列などで、このようなことまで他人任せでは相手方から誠意がないとみられ、代理人の交渉もやりにくくなることでしょう。したがって、他人に交渉を依頼する場合でも、責任はあくまで自分にあるのですから、誠意をもって解決する気持を失ってはいけません。裁判例をみても、会社の事故係が見舞っただけで、加害者本人は葬式にも参列せず、その後も何の措置もしなかったことが慰謝料額決定に際し不利に酌量されているのに対し、被害者の入院中ほとんど毎日のように手土産を持参して見舞に赴いたことが有利に取り扱われているのはいうまでもありません。

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