加害者が財産を隠匿するおそれがある場合

最近、裁判が早くなってきたというものの、一般的にはまだまだ相当長期間を要するのが実態といえましょう。そこで、せっかく裁判に勝っても、その間に加害者側の財産状態が悪化したり、隠匿したりして、そのときにはもう加害者からとるべき財産は何もないということがあります。もちろん、事業の失敗や不景気のため財産をなくすこともありますが、悪質の加害者のなかには、作為的に財産を隠匿する場合もあります。このように、加害者側の財産の悪変化を防ぐためには、被害者としては、いわゆる保全処分、すなわち加害者の財産の仮差押をしておくよりほかありません。

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仮差押とは、まだ裁判で勝訴が決まったわけではないのですが、多分被害者側が勝つだろうという見込みで、裁判所が加害者の財産を仮に差し押えておくことです。しかし、必ずしも常に被害者側が勝訴するとは限りませんので、もし被害者側が敗訴した場合には、加害者側に非常な迷惑を及ぼします。そこで、裁判所は、その被害を受けた場合の賠償の裏付けとして、仮差押命令を発するとき、申立人すなわち被害者に対して保証金を供託するように命じます。この供託金額は、被害者が加害者に請求する金額または仮差押を受ける物件の価格の三分の一ないし五分の一くらいが普通のようです。
仮差押できる物件としては、土地、家屋などの不動産、金庫、机、椅子、タイプなど動産や電話または自動車 などがあります。しかし、不動産の場合抵当権が設定してあったり、他からすでに差押を受けていたり、所有権移転に仮登記があったりしますと実効を得ることができませんし、動産の場合は判決のあるまで加害者は自由にこれを使用できますから、消耗し価格が低下するため、これまた実効を得ない場合が少なくありません。また、電話や自動車の場合にも、その物自体を仮差押するのではなく、電話局の電話加入者原簿や陸運事務所の自動車登録台帳に登録するものですから、見かたによってはたいした効力はないといえましょう。しかし、売却などをするには支障をきたすため、名義を書き変えられたりする心配はなく、間接的には加害者に心理的な圧迫を加えることにもなります。
なお、悪質な加害者が強制執行を免れる目的で、財産を隠匿、損壊、仮装譲渡し、または仮装の債務を負担したりした場合は、いわゆる財産隠匿罪として刑事上処罰の対象となりますから、明確な証拠をつかんだときは告訴することも可能です。しかし、こういうことは、もちろん内々に事を運びますから、その真相をつかむことが容易ではありません。それで加害者が資力不足になったような場合には、裁判所に破産宣告を申し立て、国の選んだ破産管財人によって調査してもらい、財産隠匿を摘発してもらう方法もありますが、破産手続には費用、労力、時間が多くかかるので、債権が多額でないかぎり実効をおさめることは難しいようです。
いずれにしても、この種の手続をとることは素人には難しいものですから、専門家である弁護士に相談し、一任した方がよいかと思われます。

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