労災保険と損害賠償との関係

私の夫は、自動車事故で死亡しましたので、労災保険により遺族補償費を受けとりましたが、加害者から損害賠償を受けるについて、私や他の遺族に影響があるのでしょうか。また、この補償費を受けとると慰謝料を請求することはできないでしょうか。
この事件は、Y石油会社所有のトラックをS運転手が運転中、バッテリーが故障して動かなくなったので、同運転手は会社に連絡したところ、折柄日没でやむをえないから他日修理をするということだったので、そのまま道路上左側に駐車しました。ところが、被害者Mは、自動二輪車に乗り午前一時頃酒気を帯びて相当のスピードで通行し、トラックに直前まで気づかず、激突して死亡しました。原告(被害者の妻子)は、Y会社に対し損害賠償および慰謝料の請求をしましたが、被害者の妻は、労災保険による遺族補償費を受領していました。そこで問題は、S運転手の過失の有無のほか、被害者の妻が労災保険による遺族補償費を受領していた場合、民法上の損害賠償責任の免脱は妻に限られるか、それとも他の遺族にも及ぶかということと、労災補償を受けていた場合には精神上の慰謝料については加害者に請求できるかどうかが争われたわけです。

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裁判所は、その故降車を道路上に夜通し置くことは危険が予測できるので、付近の空地に入れるか、特に前方より目につく程度に標識灯をつけるなどの措置を講じて、その危険の発生を未然に防止すべきであったとして、過失を認めたうえ(ただし、本件の場合の過失の度合いは、加害者側一、被害者側九の割合とされました)、本問の問題点について、つぎのように判示しました。
まず、第一の問題点である、被害者の妻が労災保険による遺族補償費を受領した場合における民法上の損害賠償責任の免脱の範囲については、「被害者の妻が労災保険により国家からその所定の遺族補償費を受領したのは、労働者災害補償保険法第一五条第一項、同法施行規則第一六条第一項に定められた受領権者である同人に対する補償であるから、これによる民法上の損害賠償責任の免脱は、同人(妻)についてのみ考慮され、他の遺族には及ばない」と判示しました。
また、第二の問題点でもる労働者災害補償保険法にもとづく保険給付と不決行為による慰謝料請求権との関係については、「労働基準法による災害補償は、労働者または遺族に対し、その労働力の回復、又は生計維持を図るために積極的および消極的な財産上の損害をてん補するためのものであって、精神上の苦痛に対する慰謝料の目的とするものではないから、遺族において労働者災害補償保除法による保険給付を全部受理した場合にも、なお慰藉料の請求をすることができるものと解する」と判示したのです。
このようにして、その事件について、裁判所は「Y石油会社は、被害者の妻に対し慰藉料二万円を支払え。被害者の子(三人)に対し、各損害金三万円および慰謝料一万円を支払え」という判決をくだしました。

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