仮執行宣言と執行停止手続き

仮執行の宣言とは、未確定の終局判決に執行力を供与する旨を宣言する裁判です。
もともと、強制執行は、判決確定後になされるのが原則ですが、しかし、裁判所からひとたび権利が認められた以上は、判決が未確定であっても、直ちに執行することが権利保護の実情にふさわしいと考えられる場合には、この宣言がなされます。こうして、悪質な被告が、判決を確定させないために上訴してその執行を逃れようとするのを防止し、原告に早期にその実効を収めさせることができるようにしたのです。
ところで、自動車事故などによる損害賠償請求は、財産権上の請求ですから、原則として仮執行の宣言を付することができます。そこで、原告側は、まず例外なくその訴状に仮執行の宣言を求め、裁判所もほとんどの場合その請求を認め、仮執行の宣言をしています。もちろん、仮執行は裁判所が必要ありと認めた場合に付するものですから,絶対につけなければならないものではありませんが、交通事故の損害賠償事件で仮執行の宣言をしない判決は、きわめて珍しい事例でしょう。

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そればかりでなく、最近は、いわゆる無担保仮執行宣言を付する判決が非常に多くなってきました。つまり、以前は「原告が担保として金何円を供託するときは仮に執行することができる」として、認容賠償額の三分の一ないし一〇分の一程度の担保金を必要としていたのですが、最近は「この判決は仮に執行することができる」として、無担保で仮執行を宣言する傾向になっています。特に、東京地裁交通専門部では、つとに例外なく無担保仮執行宣言を付しているようです。もちろん、被害者の迅速保護という面を重視してのことでしょう。
しかし、反面、上訴した場合に原判決が取消し、変更されることもありますから、法は、敗訴の当事者が上訴したとき等において、裁判所が執行停止や仮執行を免れる旨の宣言をすることを認めています。つまり、敗訴によって第一審判決に対し不服主張をとなえた敗訴者は、たとえ控訴審で勝訴の判決を得たとしても、すでになされた仮執行宣言付終局判決にもとづく強制執行によって生じた損害は、いわゆる、覆水盆にかえらずのたとえどおり、旧に復することは不可能に近いので、その保護を考えた措置にほかなりません。
ところで、この仮執行宣言付きの判決は、言渡しによって直ちに効力を発生します。そして、この判決に対して上訴しても、それだけではその効力は停止されません。したがって、敗訴の被告がその仮執行を免れるためには、上訴とともに、強制執行停止の申立てをし、停止決定を得て停止させるほかありません。
この控訴提起にともなう強制執行停止手続としては、管轄裁判所に対してその申請書を提出することになっています。この申請は、控訴状と同時に提出してもかまいません。申立ての要件は、控訴の要件だけで、他に何らの要件も定められていないので、申立人の不服の理由として主張した事情が法律上理由があるとか、事実がどうであるかなどの点について、必ずしも疎明する必要はありません。
この申立てに対する裁判は、口頭弁論を経ないですることができますから、決定の形式でされますが、時には当事者は、裁判所から審問されることもあります。そして、その裁判は、申立人に保証を立てさせてすることができ、通常、停止を求める理由として主張する事由の内容とその疏明の程度などを参酌して、保証額が決定されますが、その保証額は通常、訴訟物の価額の三分の一程度といわれています。なお、この保証金は供託し、供託書と納付書とを裁判所に提出することになっています。

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