当たり屋対策
一般に「当たり屋」とは、故意に自動車などに軽く接触し、大げさに路上に倒れたり声を発したりして、あたかも自動車事故によって負傷したように装ったり、あるいは軽傷を負って重傷であるかのように装ったりして、その治療代または慰謝料の名のもとに金や品物をとろうとする者のことです。
当たり屋は、これまでの多数の事例によってわかったところによりますと、時間は、午前一〇時ごろから午後六時までの間。特に午後一時頃から四時までの間に多い。道路の幅員は、約四メートルないし八メートル程度の比較的狭い道路に多く、片側または両側に多数の駐車のある場所が選ばれる。その時の自動車の時速は、おおむね五キロないし一〇キロ程度の場合がほとんどで、停車しようとするとき、左折その他の理由で徐行しているような場合がねらわれる。自動車は、多くの場合自家用車、それも比較的高級車が対象とされる。浮浪者、労務者などに多く、二、三人の共犯者がいる場合が多い。などの諸点が特色となっています。
この当たり屋は、事故を起こせば直ちに運転者の責任とする現在の社会観を巧みに利用した商売で、日雇労務者や職にあぶれた者が二、三人くらい組になっており、いわゆる下町で発生することが多いようです。なかには、夫婦で当たり屋をやり、計一一件約一二万円の示談金をせしめていた事例もあります。この事例では、夫の鎖骨がはずれやすくなっていたのを利用し、骨折したとみせかけるので、なかなか当たり屋とはわからなかったようです。また、内縁の夫婦で子どもを使って当たり屋をし、全国をまわって莫大な賠償金をとっていたものもありました。
運転者は、一般に事故を起こすと、できるだけその場で解決してしまおうという傾向をもっています。これは処罰や免許の停止などを恐れたり、外聞を恥じたりするためでしょう。しかし、そこがまた当たり屋のつけ目ですから、そのような態度を示すとますます図に乗ってきて多額の示談合を請求するようになり、あとあとまで面倒なことになります。したがって、相手が当たり屋と思った、すぐ警察にその旨を届け、その状況を詳細に話すのがもっともよい方法です。多くの場合、「警察で話そう」の一言で片がつきます。直ちに警察に届け出て、よく調べてもらうことです。
それが本当に当たり屋であることが判明すれば、その行為は、あなたがだまされたときは詐欺、または脅かされて金品をとられたときは恐喝になりますから、もちろん犯罪となり、処罰されます。そのような場合、むしろ被害者ですし、責められるべき点はないわけですから、賠償する必要はありません。
しかし、交通事故の場合、むやみに被害者を当たり屋扱いにすることは厳しく慎まなければなりません。もし当たり屋でないときは、相手方を二重に苦しめることになりますし、その後の話合いももつれることになります。したがって、当たり屋でないかと思っても、その場で自分だけで判断せず、警察に状況を話してその点についても捜査してもらい、公正に判断してもらう必要があります。
なお、損害賠償請求事件で、加害者側が本件は当たり屋の所為ではないかという疑いを主張をしている珍しい例もあります。しかし、この事件は、もっぱら被告側の過失に基因するものとされました。
示談交渉の相手方/ 示談交渉の適格者/ 示談交渉をする場合の注意(被害者側)/ 示談交渉する場合の注意(加害者側)/ 示談交渉の書式/ 賠償金の分割払い/ 示談のやり直し/ 示談屋対策/ 当たり屋対策/ 事故仲介者の賠償責任/ 調停の申立て/ 仮の地位を定める仮処分/ 加害者が財産を隠匿するおそれがある場合/ 賠償請求訴訟/ 裁判を有利に運ぶための訴訟の準備/ 仮執行宣言と執行停止手続き/ 加害者に強制的に損害賠償を支払わせる/ 競売と転付命令/ 判決に不服のあるとき/ 強制保険金請求の手続き/ 強制保険金の被害者請求/ 強制保険金の再度請求/ 強制保険の適用除外車/ ひき逃げをされたときの損害賠償請求/ 強制保険と損害賠償との関係/ 労災保険と損害賠償との関係/ 強制保険金の消滅時効/ 任意保険金の請求の仕方/ 自動車の盗難、火災による保険金請求/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved