賠償金の分割払い
示談が成立し、示談書を取りかわしても、必ずそのとおり支払ってもらえるものとはかぎりません。もっともよい方法は、一時払い(全額払い)で、しかも示談書の交換と同時に支払いを受けることですが、賠償額が多額となりますと、一時払いがムリである場合が少なくなく、月賦とか年賦のいわゆる分割払いということになります。したがって、被害者の立場からいえば、心配がどうしてもでてくることになりましょう。
裁判例でも分割払い方式による損害賠償請求を認めた事例があります。これは、遂に原告側が扶養請求権侵害による損害を年金式で請求した珍しい事件ですが、被告側がこれを不相当として争ったのに対し、「将来扶養をうけるべき利益の喪失による損害を、中間利息を控除して一時に請求するか、または年金式に請求するかは、権利者の選択にまかされているものと解するのが相当であり、本来年金的利益なのであるから、これを年金武に請求するのを拒む理由がない」として、原告に対し一〇年間毎月末一ヵ月一五〇〇円宛の支払いを命じた判決があります。また、仮処分申立の事件ですが、原告が、事故によって両足の関節を粉砕され、一年以上入院を継続しても退院の見込みがなく、裁判の解決を待っていては病院の支払いもできないという場合に、とりあえず向こう一年間、毎月一万五千円ずつ仮処分命令による支払いを申請して、これが承認された事例もあります。
では、月賦など分割払いのときには、どのような手を打っておいたらよいでしょうか。
示談書の内容に、支払期間、支払日および支払場所、分割払いの金額、支払を怠った場合の措置などを明らかにしておく。
示談の際、いわゆる頭金をとること。少なくとも頭金として二分の一以上をとり、残額を分割払いとすれば、万一の場合でもそれだけ損害を少なくし、加害者側も支払期間を縮小できることになります。
加害者の近親者や資力のある人を連帯保証人につけること。通常、これで大体確実ですが、特に高額で不安のわかるときなどは、不動産に抵当権を設定すれば、さらに確実となります。
示談書と同じ内容を、公正証書または即決和解調書としておくこと。これをしておきますと、支払不履行の際、強制執行がやりやすくなります。
以上に掲げたことは、必ずしもその全部をする必要はありません。その金額や相手方の資産状況や信用性の程度などによって適宜の措置をとったらよいでしょう。事故直後は、加害者は誰でも支払う意思が強いのですが、日時の経過とともにその気持が薄らいできます。これは人情というものかも知れません。その意味で、被害者は、ある程度念を入れて支払いを確保する方法をとっておかねばなりません。
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