強制保険の適用除外車
私は、道路を横断中、自動車にはねられ軽傷を負いましたが、運転手が駐留軍人らしい外国人であったため、どのようにして損害賠償を請求してよいか困っております。私の方にも過失がありますので、保険金だけでもとりたいと思っておりますが、どうしたらよいでしょうか。
自動車は、原則として責任保険(強制保険)に加入しなければなりませんが、例外としてこの保険に入らなくてもよい自動車があります。これを普通「強制保険適用除外車」と呼んでいます。
この適用除外車にあたる自動車は、国が運行の用に供する自動車、都道府県および指定都市が運行の用に供する自動車、政令で定める者が運行の用に供する自動車、道路以外の場所のみにおいて運行の用に供する自動車などです。これらの自動車が強制保険の適用除外となっているのは、その賠償能力に心配がないとか、国際慣習や各種行政協定等の規定によっているためです。
これらの自動車は、強制保険の適用除外になっていますが、自賠法三条のいう損害賠償責任規定は、一般の自動車と同様に適用されます。また、政府の保障事業の賦課金については、都道府県および指定都市が運行の用に供する自動車についても納付義務があり、国および政令で定める者が運行の用に供する自動車については、賦課金に相当する額を自動車損害賠償責任再保険特別会計に繰り入れることになっています。また、構内自動車については、これによる事故の損害を政府の保障事業によっててん補することができるようになっています。
ところで、これらの適用除外車によって死傷のあった場合、どうしたらよいでしょうか。
このうち、まず、構内用自動車については、その保有者、運転者らに損害賠償請求ができるほか、前述したとおり、政府の保障事業によって、強制保険金の交付を受ける場合と同様に、その限度額までは損保会社を通じて請求することができます。
その他の適用除外車については、政府の自動車損害賠償保障事業の適用がありませんから、保険会社に請求することはできません。したがって、加害車両の保有者である国、都道府県または指定都市に直接交渉して、損害賠償を請求するほかありません。この実際の交渉は、それらの役所の庶務課または人事課などを相手として行なうことになります。
これらの自動車にも、ふつうの自動車と同じように自賠法三条が適用されますし、民法七一五条の使用者責任でも請求ができますから、損害賠償の要件や内容は、ふつうの場合と変わりがありません。
一見私用運転のような場合でも、外観上からみて公務と見られるような場合は、国や都道府県、指定都市がその責任を負うこともあります。
ただこのうち、国、都道府県および指宅都市の自動車については、国家賠償法一条の公権力の行使にあたる公務員の起こした不法行為についての国などの責任や、国家賠償法二条の公の営造物の管理の瑕疵についての国などの責任の規定の適用される場合も考えられます。しかし、ふつうは自賠法三条で請求していけばよいわけですし、国家賠償法でいってもそれよりとくに有利になるわけではないと思われます。
つぎに、外交機関や国連機関または日本にある外国の外交官などの場合には、国際習慣により、いねば治外法権が認められています。しかし、相手方と任意な話合いをすることは可能ですし、従来までの例では、相手方の外交官も一国の代表としての体面や国際的な影響等を考慮し、おおむね円満に示談が成立しているようです。しかし、相手方がこれに応じなかったり、誠意が認められないときは、外務省の儀典課、県庁の渉外課に申請し、話合いをまとめるようにすべきです。
つぎに、駐留軍の自動車による事故の場合には、その運行が公務中であるかどうかによって取扱いを異にします。公務中の場合には、国が損害賠償をすることになりますから、防衛施設庁に申し出て、「被害発生証明書」の用紙を受け、それを警察で証明してもらい、他の資料(診断書・治療費の明細書など)を添付して同庁に提出します。また、公務中でないときは、その運転者と話し合うことになりますか、この場合、多くは任意保険に入っているので、保険会社と折衝することになるのが普通のようです。もし、示談ができなければ、防衛施設庁に申し出て交渉してもらうなり、裁判所に訴訟を提起するほかありません。
以上のとおりですから、本問の場合も、その外国人が外交官であるのか、駐留軍の軍人であるのか、それとも単なる私人にすぎないのか、事故を取り調べた警察で調査したうえ、対策を考えたらよいと思います。私人にすぎない場合には、一般の日本人の場合と同様強制保険の契約をしていますから、強制保険の保険金の請求ができますが、そうでなければ強制保険の保険金そのものの請求はできないことになります。
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