仮の地位を定める仮処分

私は道路を横断中、タクシーと接触して転倒し、頭に重傷を負い入院中です。加害者と話し合いましたが示談ができず、治療費が次第にかさみ、また付添家政婦から日当などの請求を受け困っております。あと、少なくとも半年は入院していなければならないのですが、保険の仮渡金三万円はすぐ右から左へと消えてしまいました。生活保護をもらうことになりましたが、付添婦や入院費は援助してえらえません。何とかならないものでしょうか。
このように、ぜひとも加害者から早急に損害賠償の支払を受けたい場合には、裁判所に仮の地位を定める仮処分命令の申立てをするのがもっともよいと考えられます。

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交通事故による被害者が、入院費、治療費などを賠償させる緊急な手段としては、通常、仮差押の手続がとられていますが、これは判決のあるまで加害者の財産の移転や散逸をとどめるため、つまりいうなれば保全処分としてやるだけのものですから、相手方からすぐ給付を受けるまでにはいたりません。そこで、このような場合には、「仮の地位を定める仮処分」の規定によって、裁判所に、いわゆる仮払いを求める仮処分を申請するのです。この申請をすると非常に早く審理が始まり、裁判所がこれを認めると決定がでます。決定がでれば、ひきつづいて強制執行にはいることができるので、動産を差し押えたたらば一週間ほどで競売されて現金となりますから、早ければ申請し一〇日ぐらいすれば入手でき、治療費などに支払えることになるわけです。しかも、この決定がでれば、実際には加害者側かあきらめて強制執行の手間をかけるまでもなく支払いに応ずるのが普通ですから、もっとも手っとり早い方法といえましょう。そのためか、最近はこの種の仮処分を求めるケースがよくみられるようになりました。
実例を一つ掲げてみましょう。被害者Kは、昭和三八年五月三〇日、M電気鉄道株式会社の自動車にはねられS病院に入院しましたが、五ヵ月を経過しても、退院のみとおしも立たない状態でした。Kは、田二反歩くらいと畑三反歩くらいを耕作して生活していたのですが、生計をともにしている長男は大工の見習で、その収入を合わせても、とても入院治療費は支払えない有様です。結局、田畑を手ばなして処分する以外に収入の目あてはなく、それでは家庭生活が破壊され、将来、回復しがたい損害をうけることになります。そこでKは、やむなく裁判所に対し、仮払いを求める仮処分を申請したのです。裁判所は、この申請に対し、理由があるとしてM会社に対して、かりにKの入院治療費を支払わなければならないという仮処分命令を発しました。M会社は、この命令を不服として仮処分異議の申立てをしましたが、結局却下され、仮処分が認められました。判決は、その仮処分の必要性について、「被申請人(M会社)はN県内における有数の交通会社である。本件仮処分を維持されることにより異常な損害を蒙る特段の事情も認められない。この事実によれば本件仮処分により被申請人が本案訴訟に勝訴するときは、ある程度の損害を蒙ることが想像できるけれども、申請人(K)が本件仮処分を取り消されることによって蒙る損害にくらべれば、とるに足りないものといわなければならない。よって、本件仮処分についての必要性があるものと認定する」と述べています。このほか、仮の地位を定める仮処分を申請したその日に、加害者に対し被害者の入院費用についてのこれまでの滞納分二一万六、三六〇円および今後退院までの治療費を半月ごとに一万五千円ずつ支払えという決定を下した事例もあります。したがって、本問の場合にも、この仮処分の申請をすれば、裁判所はこれを認めてくれるのではないかと思います。
この仮の地位を定める仮処分の申請方法は、弁護士会のなかにある交通事故処理委員会に行き相談してください。また、生活にも困っているような場合には、法律扶助協会で世話してくれることになっています。

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