示談交渉付の保険の場合の示談交渉
対人任意保険をかけておくと、もし、事故をおこしたときには示談交渉を保険会社の人がやってくれやのがあります。いわゆる、示談交渉付きというものです。
この場合には、加害者に代わって保険会社の人が被害者のところに示談交渉にきます。この場合は、当事者が感情的にならず、また保険会社もそう不当な金額は提示しないので、示談交渉の形態としては悪くはないと思います。しかし、被害者側として注意すべき点が三点あります。すなわち、
(1) 保険会社の提示する慰謝料額は、裁判所の認定額よりやや安いこと。
(2) 死亡事故の逸失利益を算定するとき、統計による平均賃金を基準とすることがあるが、保険会社は一、二年古い統計を使ってくることが多く、したがって、最新の統計より安い。
(3) 過失相殺の割合も裁判所より被害者にきびしい。保険会社が五分五分といっている事案でも、裁判所の判決では加害者が七、被害者が三くらいの過失割合になる傾向にある。
被害者としてはこの三点に気をつけて、保険会社と交渉すべきです。保険会社の人は、いわゆる示談屋のように脅迫的なことを言ったり、いいかげなことを言うことはありません。その点は十分信用してよいのですが、なかなか巧妙な手段を使って金額を安くしようとします。その手段がこの三点にあるのです。
強制保険と任意保険との関係を述べておきます。強制保険と任意保険とは前にものべたように、計算の基礎も違っております。そもそも、強制保険は被害者に大きな過失がないかぎり原則として全額支払われるのです。
そこで、示談付き任意保険の場合も、強制保険はいくら、任意保険はいくらと考えるべきなのですが、保険会社の人は、なるべくこの両者をわけないで話を持ってきます。
実際にあった例ですが、幼児の死亡例で、保険会社の人がきて、この事故には賠償金二〇〇〇万円を支払います、といってきたのです。よくよく話をきいてみると、それは強制保険の二〇〇〇万円であり、任意保険は一銭もなしということでした。これでは示談交渉にならないではないかというと、計算上、二〇〇〇万円しかでないというのです。
この場合、問題は、この二〇〇〇万円を任意保険の会社が出すような口振りをしていた点です。問いつめると、任意保険はゼロですというのでは、何かバカにされたような気になるし、また、それがトラブルのもとになることもあるのです。
そこで、こういう誤解をさけるために、被害者は強制保険を自分でとること、すなわち被害者請求手続一きによって、まず、強制保険金をとってしまうのです。それから、任意保険はいくら出るか、ということを、任意保険の会社の人と交渉して決めるのが、一番すっきりすると思います。
この場合、強制保険金額のうち、慰謝料はいくらか、逸失利益がいくらかということが問題になることもありますが、通常はトータルで考えるので、この区分けはあまり問題になりませんが、必要なときは強制保険の会社に問い合わせることもできます。
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