労災保険給付金と損害賠償金との関係

会社の仕事中に交通事故にあって死亡したとき、または、後遺障害の残る負傷を受けたとき、その被害者や遺族は、加害者に、逸失利益の支払いを請求できます。ところで、他方、会社の労災保険から、死亡者の遺族に対して遺族補償が支払われ、後遺障害のある負傷者には障害補償が支払われます。
 この労災の遺族年金や障害年金と、加害者から取れる逸失利益の賠償金とはどういう関係になるのか、両方とももらえるのか、一方をもらったら他方はもらえないのかです。
 労災保険からの給付会が一時金であるなら、理論的解決は容易ですが、それが年金になっているのでどう考えたらよいのか、かなりむずかしい問題です。

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この点について、昭和五二年一〇月二五日の最高裁判所判決は、後遺障害の場合につき、つぎのように判断しました。すなわち、判決が出される時までに(示談なら示談成立時までに)、すでに支払われた保険金(治療費や休業補償はもちろんですが、すでに現実に支払われた障害年金も含む)は損害賠償金総額からこれをさしひく、しかし、将来、支給予定の障害年金(労災年金や厚生年金をふくむ)は損害賠償金総額からさしひかない(非控除説)、としたのです。
 この最高裁判所の判例以前には、下級審の判例は控除説、非控除説がいりみだれており、死亡の場合には控除説(遺族年金をさしひく)が有力でした。
 しかし、最高裁判所の判例が出た以上、今後は死亡時の遺族年金と後遺障害のときの障害年金との双方につき非控除説が一般的となりましょう。したがって、被害者は、加害者から損害賠償金をとり、他方、労災保険や厚生年金保険からの年金ももらえるということになります。
 しかし、この最高裁判所の判決も理論的には問題も多く、将来、この結論が変更されないともかぎりません。やはりここは、民法の損害賠償は一時金制度をとり、労災保険が年金制を原則としているかぎり、理論的に両者を融合させることは困難です。そこで、現実的公平の観念から、労災保険年金の三年間分だけを賠償金からさしひくといったやりかたも再考に価すると思われます。
 逸失利益の算定にあたり税金をさしひくべきかという問題も裁判所で論争された点であり、控除説(さしひく説)と非控除説とが対立していたのですが、最高裁判所昭和四五年七月二四日の判決が非控除説をとって以来、大勢は非控除説となっていると考えてください。
 非控除説の要点は、加害者は被害者に対し税金分も含めて支払い、しかるのち、税務署が被害者から税金をれるのが本筋だということです。ただ、現実には、税務署はこのように被害者から税金をとっていません。それは、税法上、損害賠償金は非課税となっているからです。しかし、非控除説が確定すれば、将来は税務署も税金をとり立てるでしょう。
 そこで、そうなるまでの現実的処置として、被害者の所得が大きいときには、税金を控除するほうが妥当だとした判例もあります。
 結論として、通常は税金非控除説でよいが、所得の多い人の場合には控除説をとるべきだと考えてよいでしょう。

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