交通事故の加害者の代理人がきた場合
事故直後に、事故運転手とその使用主とがあやまりにきたが、その後、それらの本人たちはさっぱり顔を見せず、代理人と称する人が示談交渉にくる、ということはしばしばみうけられます。被害者のなかには、本人がこなければ話はしない、と頑固に拒否する人もいますが、場合によっては、代理人でもよいことがありますから、やはり、相手の人物をよくみきわめるべきだと思います。
とくに、当事者同士では感情的にエキサイトしてしまって、冷静な示談交渉ができないこともあるので、その点も考慮に入れるべきです。
まず、中規模以上の会社や商店が加害者の場合には、社長自身が示談交渉にくることは、むしろ少ないでしょう。普通は、会社の事故係とか渉外係とかの人がきますが、それはそれでよいのです。ただ、かならず名刺をもらって、会社のいかなる地位にいる人かを確認しておいてください。
加害者が個人の場合には、その親、兄弟、その他身内の人が示談交渉にくることが多いようです。これも、まず問題はありませんから、その人と交渉をしてよいでしょう。ただ、親せきの者だ、といってきたときは、もっとくわしく、どういう親せきであるかをはっきり確認してください。
保険会社代理店の人や弁護士とかが、加害者の代理人としてきたときは、これも、職業や住所、氏名がはっきりしているので、問題はないでしょう。むしろ、こういう人たちがきてくれたほうが、示談交渉が早く進むと思います。それは、やはり賠償金の相場を知っているから、むだな交渉には時間をかけないですむからです。
注意すべき相手は、氏所、住所、職業等をはっきりさせない人、名刺をくれたが、その肩書がよくわからない人です。いわゆる示談屋という人たちは、いろいろの名刺を持っていますが、その肩書は一見してもどんな商売なのかわからないようなのが多いのです。どういう職業なのか、加害者とどういう関係の人なのかが、はっきりしないときは、その人は追い返すべきです。追い返すといういっても力づくで追い返せというわけではありません。理由を言って追い返すのです。
示談交渉の初めに、加害者本人の委任状と加害者本人の印鑑証明書とを取っておくことは、すこぶるのぞましいことです。しかし、これが絶対必要というわけでもありません。というのは、示談成立して示談書を作成するときには、それに加害者のサインをさせ、印を押させ、その印鑑証明書をつけさせるので、そこで本人の意思が確認できるからです。まあ、示談の最後にかちっとしめておけば足りるわけですが、しかし、初めからかちっとしておくほうがのぞましいのです。とくに、加害者やその代理人という人が、きちっとした人であれば、むしろ、向こうから代理委任状などもきちっと持ってくるものです。 いやな代理人をやめさせることができるか。
加害者側が示談交渉にきたときに、これに応ずるかどうかは被害者の自由です。だから、加害者の代理人なる人が、高圧的で、いばっていて、どうしてもいやだったら、ことわってしまってよいのです。もし、当の代理人にはそれがいいにくかったら、加害者本人に手紙を出して、ほかの人を代理人に立ててくれ、と要求すればよいのです。
ただ、被害者だからといって、どんな横暴もゆるされるわけではないことは当然です。加害者側が相当の誠意を示しているのに、被害者側が応じないときには、やはり被害者が不利益を受けることもあります。不利益といっても、賠償金が少なくなるわけではありませんが、具体的にはつぎのような例があります。
被害者と加害者との示談交渉で、加害者側が四〇〇万円の示談金を提示したのですが、被害者がこれに
応ぜず、ついに被害者は裁判をおこしたのです。交通事故の訴訟では、被害者が勝てば、被害者の頼んだ弁護士の費用を加害者に払わせることができます。ただし、これは、交通事故のような不法行為による損害賠償請求訴訟にかぎられ、他の一般の訴訟では、勝訴者も敗訴者も自分の頼んだ弁護士の費用は自分が支払うことになっています。ところで、この裁判の結果、裁判所もやはり四〇〇万円の賠償金しか認めなかったのです。そして、この判決にいわく、本件の加害者は示談交渉時に四〇〇万円を提示しており、これは正当な金額とみとめられる、だから、これを拒否して被害者が訴訟をおこした場合、その弁護士費用まで加害者に負担させることはできない、と。結局、この被害者は、裁判までやったが、弁護士費用だけ損してしまったのです。こういう例もあることは十分知っておいてください。
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