交通事故の示談交渉を始める時期

示談交渉を始める時期はいつがよいかは悩むものですが、被害者のなかには、加害者側から示談にしてくれといってくるのを待つべきで、被害者のほうから示談にしようと持ちかけるのは、こちらの足元をみすかされるようで、かえって被害者の立場を弱くするのではないか、と考えておられる人もいるようです。しかし、そういう心配は無用だと思われます。時期がきたら、どんどん交渉を進めるべきだと思います。
 そこで、その時期の問題ですが、一般的にいって、死亡事故のときには、遺族のかたには誠にお気の毒なことながら、もう損害賠償金の交渉しか残されていないのです。ですから、すぐにでも示談交渉にはいってよいのです。しかし、つぎのことは十分に気をつけてください。すなわち、なれた加害者は、事故の翌日にでも示談書を用意してきて、一挙に示談解決してしまおうとするものです。それは、被害者側が、まだ、賠償金の額などに頭が回らないうちに、安い示談金を持ってきて、被害者側のハンコをとってしまおうとするのです。そういう加害者が、世間の相場以上の多額の示談合を持ってくることは、絶対にありません。死亡事故となると、場合によっては億単位にもなります。それを、幾らかの現金をみせて、被害者側のハンコをとってしまうのです。ですから、何が何だか、よくわからないうちに、ハンコを押してしまうということは、絶対にしないでください。

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つぎに傷害事故の場合ですが、一般的にいうと、傷がなおったとき、ということになります。なぜかというと、傷害事故のときの慰謝料額は、入院期間、通院期間、通院実日数、などによって計算するのです。ですから、まだ入院中だとか、これからもまだまだ通院する予定だ、という段階では、示談しようにも示談金の正確なところがでないのです。そこで、最終的な示談ができないわけですね。それでは、入院や通院が長びいたときはどうすればよいのか。傷がなおるまで待っていたら、家族が日干しになってしまう、といわれるかたも多いでしょう。ここがむずかしい点ですが、つぎのように解決するほかはありません。
 すなわち、治療が長びいているときは、月々の治療費と月々の生活補償費を加害者に支払わせ、最終的示談は、傷がなおってからにすることです。この際、領収書には、何月分の治療費、何月分の生活費、と明示しておくべきです。もちろん、これらは、あとで、示談金の前払いとして清算されるべきものです。ですから、示談金の内金、と領収書に書いてもよいですが、できるだけ、何月分の生活費というように明細を書いておくべきです。
 さらに、加害者が、月々の治療費や生活費も支払ってくれないときはどうするか。この場合は、まず、自賠責保険(加害者側の自動車にかけてある自賠責保険)から治療費を支払ってもらったり、または、内払いをうけることです。自賠責保険金は、加害者から請求する方法(加害者請求手続き)のほかに、被害者から請求する方法(被害者請求手続き)もあるのです。被害者請求をするときには、示談書もいらず、加害者のハンコもいらないのです。被害者のハンコだけでできるのです。
 ところで、加害者がどうしても支払わないときはどうするか。この点について二つの方法をお知らせしておきます。まず、加害者側が任意保険(この場合は対人任意保険)に加入しているときは、任意保険の会社と交渉して治療費を支払ってもらうのです。ただし、任意保険の場合には、まだ示談が成立していないと、その中途で一部を支払うということは原則としてやりません。しかし、負傷が重く、被害者が困窮しているときは、任意保険の会社も好意的に処理してくれることがあります。まあ、任意保険会社は、めったにこういう好意的処理はやってくれませんが、一度は交渉してみることです。つぎは、裁判所の仮処分決定をもらう方法です。これは、最終示談にいたるまでの間、月々の治療費と生活費とを仮りに支払え、という裁判所の命令です。これは、被害者が宣揚で長期入院中であるにもかかわらず、加害者が何も支払ってくれないときには、最後の決め手となる方法です。
 話をもとへもどしますが、最終示談にいたる前に、月々の生活費を支払えと要求することも示談交渉です。ですから、治療が長びきそうだったら、まず、毎月の治療費と生活費を払ってくれと交渉にはいることです。その方法は、電話、手紙、さらには直接出向いていく方法、とありましょうが、忙しかったら、どんどん電話をかけることです。このようにして、示談交渉は始まっていくのです。

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