交通事故加害者側の任意保険や資力の事前調査
交通事故の加害者側が無一文ですと、これは本当に困るのです。自賠責保険(強制保険)はどの自動車にもついているから、この保険金だけは確保できますが、それだけなら、何も示談交渉もなにも必要ないのです。自賠責保険以上にいくら支払うかが示談交渉の要点です。
そうだとすると、いったい、加害者には資力があるのかどうか、自賠責保険のほかに任意保険がかけてあるかどうか、この点は示談交渉をすすめるうえで、たいへん重要な問題になります。
加害者に資力のあるときは、示談交渉はまことに楽な気持ちで進められます。世間並み、すなわち、裁判所でみとめられる程度の賠償金は当然請求できるし、それ以下に譲歩する必要はまったくないのです。加害者側としても、そのくらいの線は覚悟していますし、結局、世間並みの相場を計算することが仕事になります。
ところが、加害者側に資力のないときは、いつまでも世間相場を主張しているわけにはいきません。多少譲歩しても、あるいは、ぐんとまけてしまっても、確実にとれる賠償金をとって示談したほうがよい場合もあるわけです。一〇〇〇万円の空手形よりは、一〇〇万円の現金のほうがよいわけです。この見極めが、実は示談交渉の際のむずかしさです。
そのために、事前に、加害者側の資力と任意保険の有無を必ず調べてください。任意保険の有無は、加害者にきくほかはありません。加害者側も、それがあれば自分が助かるのですから、かくすことはないと思います。そして、任意保険といっても、いろいろな種類がありますから、その種類と限度額と保険会社名とを確認してください。たとえば、対人、一〇〇〇万円で何々火災保険会社というようにです。そして、任意保険があるときには、一度は、加害者、被害者、それに保険会社の人の三者で話し合って、保険からいくら支払われるかをきいてみる必要があります。
加害者側の資力調査の方法ですが、会社なら、その従業員数や自動車数、工場の規模、その他を調べれば、だいたいは見当がつきますが、そういうききこみ程度では十分にわからないときはどうするか。そういうときは、興信所に頼んで調査してもらいます。興信所の調査費用は一件当たり、一〇万円ぐらいです。なお、同じような調査機関として、探偵社というのがありますが、探偵社は興信所とやや趣が追っていて、人の尾行とがかなりむずかしい調査までやってくれますが、それだけ調査費用も高いよう
です。通常の財産調査、すなわち、土地や建物がどれだけあるか、商売の取引高はどのくらいか、といった程度の調査なら、興信所で十分間に合うと思います。ついでに申しますと、土地や建物の調査なら、その番地を調べて、それから登記所へ行ってその番地のところを調べてもわかるのですが、しろうとの人では、少々調べにくいかもしれません。しかし、登記簿の閲覧はだれでもできるのですから、面倒でも、登記簿を閲覧すれば、興信所と同じくらいの調査はできないこともありません。
まあ、あらゆる手段を使って、加害者側の財産、取引高、純利益、等を調べておくことは、示談交渉のために必要な条件となります。加害者側は、なにしろ景気が悪くて、と弁解しがちです。そのとき、いや、相当のものではないですか、と興信所の調査書でもちらつかせれば、相手も緊張することでしょう。
交通事故での示談とは/ 示談にはどのような効果があるか/ 示談交渉に入る前の基本知識/ 示談交渉にはどんな形式があるか/ 交通事故損害賠償の支払人の確認/ 交通事故の加害者の代理人がきた場合/ 交通事故の示談交渉前にそろえておく書類/ 交通事故の場合に代理人を立てることの是非/ 交通事故の示談交渉を始める時期/ 交通事故加害者の手口/ 交通事故加害者側の任意保険や資力の事前調査/ 交通事故の加害者が逃げ回っているとき/ 交通事故の加害者に対する刑事処分/ 治療継続中に中間的にする示談/ 後遺症の出るおそれのあるときの示談/ 示談交渉中の仮処分/ 弁護士の上手な頼み方/ 示談にするか裁判にするかの分岐点/ 悪質な示談屋にひっかかった場合/ 一旦成立した示談を取り消せるか/ 示談と時効の関係/ 運行共用者とは/ 刑事上の過失と民事上の過失/ 労災保険給付金と損害賠償金との関係/ 子供の過失と親の監督責任の関係/ 使用主が賠償金を支払った後での従業員への請求/ 示談交渉付の保険の場合の示談交渉/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved