刑事上の過失と民事上の過失
自動車事故の加害者に対する刑事処分は、過失の大きいものから順にならべるとつぎのとおりとなります。
・正式裁判で実刑判決となる。
・正式裁判で執行猶予行判決となる。
・略式罰金となる。
・不起訴となる。
なお、刑事処分とは別に行政処分がありますが、これは、重大な違反事件のときには免許取消し、つぎが長期の免許停止、つぎが短期の免許停止、となります。この行政処分は、事故を起こさなくても、信号無視やよっぱらい運転をすれば課せられる処分ですから、ここでは、いちおう、この点は考慮外としておきます。
ある加害運転手が他人を負傷させてしまったが、刑事上の処分は不起訴になったとします。当然、この加害運転手は、自分は潔白だ、無過失だ、と主張し、被害者に対して損害賠償金を支払う必要はないのだといい出します。この場合はどうなるのでしょうか。
結論からいうと、そうはなりません。これは特に法律的な理論にもとづくものではないのですが、刑事裁判においては被告人(加害者)に過失があったという確かな証拠が必要であり、単に疑わしいというだけでは有罪になりません。疑わしきは被告人の利益に、といわれているゆえんです。ところが、民事裁判においては、被害者(民事裁判の原告)を救済してやろうという意識が強く裁判官に働きます。ですから、疑わしきときは加害者に過失があったと認める傾向にあります。
もちろん、加害者が刑事裁判で無罪になったり、または、そもそも不起訴であったとぎは、通常は被害者の過失が大きいとみられるので、民事裁判でも大きく過失相殺をされることは当然でしょう。
そこで、実際の裁判例をみますと、刑事では不起訴になり、民事でも請求棄却、すなわち、被害者側に一〇〇パーセントの過失があったので、損害賠償請求をまったくみとめなかったことなった例、刑事では不起訴になり、民事では五〇パーセントの過失相殺をした例、刑事では無罪となり、民事では三〇パーセントの過失相殺をした例、などがあります。
要するに、誰がみても被害者の過失が一〇〇%と思われるとき、すなわち、被害者自身がよっぱらい運転をしてセンターラインをこえ、対向車にぶつかって死亡したというようなときは、この被害者(死亡者)は賠償金が一銭もとれないでしょう。
しかし、それほどでもないときは、たとえ、加害者が刑事では不起訴や無罪になったとしても、民事では五〇パーセント前後の過失相殺をされるが、賠償金がゼロになることはない、と考えてよいでしょう。
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