交通事故の場合に代理人を立てることの是非

加害者側が代理人を立ててくることはよくありますが、被害者のほうで代理人を立てるのはどうでしょうかか。もちろん、ご本人が直接、相手と示談交渉することが、一番安全かつ確実ですが、本人が感情的になりやすい場合や、本人が口べたで他人と話をするのがきらいだ、というようなときは、むしろ、代理人を頼んだほうがよいこともあります。しかし、問題は、その代理人の人物と能力です。いいかげんな人や悪い人間を代理人に頼んでしまったら、それこそ百年めです。よく悪質示談屋にひっかかって、示談金を持ち逃げされたという話をききますが、これがその悪い代表例です。
 とにかく、見も知らぬ他人に代理を頼むことはやめてください。悪いやつは口がうまいものですが、そういう口車にはのらないこと。結局、身元や素姓のわかっている人で、これならと思う人があったら、その人に代理人になってもらうことです。もし、そういう適当な人が見当たらなかったら、自分で示談交渉に当たることにしてください。

スポンサーリンク

一般的にいって、示談交渉には代理人を頼んだほうがよいと思います。それは、感情的にならずに冷静に話し合えるからです。とくに死亡事故の場合には、遺族のかたは、すぐお金の話をする気になれないし、加害者側としても、お金の話をするのはぶしつけになりはしないかと遠慮するので、示談交渉といっても、なかなか、話が要点に集中しないのです。死亡事故や重傷事故の被害者の心痛は、それはもう、はかり知れないほど大きなものです。ときには、遺族のかたも死んでしまいたいような苦痛です。しかし、とくに死亡事故のときには、もう、あとには示談金(賠償金)の問題しかのこされていないのです。示談交渉とは賠償金の交渉です。このことは、被害者のかたも理屈ではわかっても、気持ちとして、そうなり切れないものです。そういうときは、示談交渉について代理人を立てることは、むしろ必要だとも思えます。
 代理人として弁護士を立てることは、十分意味のあることではありますが、しかし、弁護士は商売でやっているものだから費用をとられます。そこで、弁護士を頼むときには、はじめに、費用は全部でいくらかかるということを、はっきりさせてください。費用をはじめにきくことを失礼なことと考えている人もいますが、けっしてそんなことはありません。弁護士は商売でやっているのですから、弁護士費用はいくらかときくことは当然のことです。弁護士の着手金と報酬と全部でいくらかかるかを明確にしておいてください。くり返しますが、身元、職業、人物のしっかりした人がいたら、この人を代理人に立てることは、むしろ、好ましいことです。しかし、そういう人がいなかったら、まず自分で示談交渉に当たるべきです。
 それでも、やはり、示談交渉にはいる前に、一度は専門家の意見をきいてほしいものです。そのためには、全国各地にある弁護土合の交通事故法律相談所を利用するのがよいでしょう。各地の保険会社のなかにある交通事故相談所は、保険のことに関しては一番くわしいのですが、裁判所の算定基準については、あまりくわしくありません。その他、国や都道府県のやっている交通相談所は、交通事故の法律問題について、非常にくわしい人とあまり知らない人とがまじっている、要するに相談員の知識にてこぼこがある点が欠点です。
 弁護士のなかにも、交通事故にくわしい人とそうでない人とがいますが、しかし、昨今はたいていの弁護士は交通事故を手がけていますし、とくに法律的にむずかしい点のある問題でもないので、手前みそになりますが、弁護士会のなかにある交通事故法律相談所ヘ一度は相談に行ってください。もちろん、無料です。できれば、弁護士会、保険会社、市役所や区役所の法律相談所、の三ヵ所へ行って、三者の意見をきいてみると、ほぼ世間の相場がつかめます。それから、示談交渉にのぞめば、自分の意見に自信がもてるでしょう。一般にいえるのですが、自分だけで考えていると、どうしても自分に有利なことしか頭にうかばないものです。裁判に関係していると、このことがよくわかります。民事裁判は、原告と被告とにわかれて争うわけですが、原告も被告も、とにかく自分に有利なことを大きくとりあげ、その結果、両方の言い分が正反対になってしまうこともあります。たとえば、事故当時の交差点の信号が青だったか赤だったかということは、一方が青なら他方は赤だったはずです。ところが、原告も被告も自分のほうが青だったと主張することもめずらしくありません。ところで、かんじんなことは、原告も被告も自分の主張はうそではないと信じていることが多いことです。うそだとわかっていながらうそをついているのなら、いつかはそれがばれるものです。しかし、絶対にうそではないと信じてしまっていると、ことはむずかしくなるのです。これというのも、人間は自分に有利なことばかり考える傾向にあり、それがこうじると、自分に有利なことだけが真実になってしまうのです。弁護士の仕事も、相手を説得することより、まず、自分 の依頼者のうそを発見することがむずかしいといわれています。
 まず、自分で請求金額をよく計算すること、それから、交通事故法律相談所へ行って意見をきくこと、それから、示談交渉にのぞんでください。

交通事故での示談とは/ 示談にはどのような効果があるか/ 示談交渉に入る前の基本知識/ 示談交渉にはどんな形式があるか/ 交通事故損害賠償の支払人の確認/ 交通事故の加害者の代理人がきた場合/ 交通事故の示談交渉前にそろえておく書類/ 交通事故の場合に代理人を立てることの是非/ 交通事故の示談交渉を始める時期/ 交通事故加害者の手口/ 交通事故加害者側の任意保険や資力の事前調査/ 交通事故の加害者が逃げ回っているとき/ 交通事故の加害者に対する刑事処分/ 治療継続中に中間的にする示談/ 後遺症の出るおそれのあるときの示談/ 示談交渉中の仮処分/ 弁護士の上手な頼み方/ 示談にするか裁判にするかの分岐点/ 悪質な示談屋にひっかかった場合/ 一旦成立した示談を取り消せるか/ 示談と時効の関係/ 運行共用者とは/ 刑事上の過失と民事上の過失/ 労災保険給付金と損害賠償金との関係/ 子供の過失と親の監督責任の関係/ 使用主が賠償金を支払った後での従業員への請求/ 示談交渉付の保険の場合の示談交渉/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク