示談交渉中の仮処分
仮処分とは、交通事故の損害賠償の問題が最終的に解決するまでの間で、中間的に、治療費や生活補償費を支払っておけ、という裁判所の命令のことです。
裁判所の仮処分命令というものは、実社会では相当大きな力をもっているものです。仮差押えとか仮処分という言葉をきいたことのある人も多いと思います。しかし、実のところ、交通事故の関係で、この仮処.分というのが利用され出しだのは、比較的最近のことであって、昔はほとんど聞いたこともなかったような状態でした。
本来、この仮処分をやるには、まず、被害者から加害者に対し、損害賠償請求訴訟をおこします。しかし、この訴訟が終了して判決がでるまでには相当の時間がかかるので、その判決がでるまでの間、仮りに治療費や生活費を支払っておけという仮処分命令をもらうのです。しかし、仮りとはいいながら、治療費等を実際に加害者に支払わせることになるので、裁判所としても、そうかんたんにはこの仮処分命令を出しません。
まず、本来の訴訟で、原告(被害者)が勝訴する見込みが十分あること、被害者が、現在、治療費や生活費に困窮していることが必要な条件になります。通常は、仮処分命令を出すときに、裁判所は、担保の
ために保証金をつませます。保証金額は、請求金額の二割前後とされています。しかし、交通事故の仮処分のときは、もともと、被害者が困窮しているわけですから、この保証金も名目だけの、ほんの少額にしてくれることも多いようです。
いずれにせよ、仮処分命令をもらうためには、裁判所に仮処分命令申請書を出し、ついで裁判官に面会して、いろいろの証拠書類、すなわち、事故証明書、診断書、診療明細書、被害者が困窮している旨の民生委員の証明書等を見せるのです。そうすると、裁判官が保証金をいくらつみなさいといいます。そこで、その保証金をつむと、裁判官が仮処分命令を出してくれるのです。
ただ、この仮処分命令は、毎月の治療費と、毎月の最低生活補償費とにかぎられているようで、逸失利益や慰謝料は仮処分命令ではダメです。したがって、仮処分命令の内容としては、「債務者(加害者)は債権者(被害者)に対し、平成○○年○○月分から、毎月の治療費および毎月○○万円ずつの生活費を仮りに支払え」ということになります。
前にのべたように、本来は訴訟をおこしてから、その判決が出るまでの間に、仮処分命令を申し立てるものですが、しかし、訴訟をあとまわしにして初めに仮処分命令を申し立てることもできます。もっとも、この場合には、債務者(加害者)から起訴命令申立てをすると、結局、債権者(被害者)は訴訟をおこさなければならなくなります。しかし、加害者からの起訴命令申立てがないかぎり、仮処分だけで用が足りることも多いのです。
今後、この仮処分は、どんどん利用されるべきだと思いますし、被害者側としては、この仮処分について、十分研究をつくすべきだと思います。とくに、治療が長期にわたっていて、最終示談はまだできないが、加害者がちっともお金を支払ってくれない場合とか、加害者がお金を支払ってくれないが加害自動車には任意保険がかけてあり、なんとかこの保険から中間的に治療費だけでも取りたいという場合、こういう場合には、おそらく、この仮処分が最後の決め手になることと思われます。ただ、裁判所に仮処分申立てをするときには、相当高度の法律知識が必要なので、弁護士を頼まなければならないのが難点です。もちろん、本人が申立てをすれば、弁護士に頼まなくてもよいのですが、本人が重傷で寝ているようなときは、とても無理でしょう。
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