交通事故加害者の手口

交通事故の加害者といってもいろいろあるわけですが、まあ、多くは誠意をもって示談解決に応じてくるし、悪質というのは少数であることは事実です。もっとも、示談解決といっても、結局はお金の問題ですし、資力のない加害者は、どうしても逃げ腰になります。交通事故の裁判をやっていても、結局、最後の難問は加害者側の資力の有無です。仮りに判決によって何千万円を支払えということがきまっても、加害者側にお金がなければ、どうにもなりません。その判決はまったく空手形で終わってしまいます。判決によって強制執行をし、加害者側の財産を競売にかけることができるのですが、加害者側に何の財産もなければ競売もできないのです。加害者側が任意保険をかけてあれば、本当に被害者も助かるのです。しかし、世間は非情なもので、資力のない人ほど、任意保険もかけていない、という傾向にあるのです。加害 者に資産もなく、任意保険もなく、ということになると、正直なところ、もう、どうにもしょうがないのです。賠償金はとれないことになります。自賠責保険(強制保険)だけでおしまいになります。
 この点の解決は、自賠責保険の限度額を高くするとか、政府が賠償金を立てかえる財団をつくるとか、要するに政治の問題になります。

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加害者も多くは誠実な人々なのですが、一部には悪質なのもいます。その例として、小さな運送関係の事業をやっている会社の事故係、さらには、加害者の代理としてやっている示談屋などが考えられます。これらの人は、一言でいうなら、事故ズレしているのです。これら事故ズレしている人たちの手口を知っておく必要があると思うので、二例だけ紹介しておきます。
 ひとつは、示談書は事故後にすぐとってしまえ、ということです。被害者が、事故直後で、まだ混乱しているときに、一万札か二〇〇枚並べて、これでおゆるしくださいと泣きつき、示談書にハンコを押させてしまうとか、死亡事故に対し金五〇〇万円を支払う、という示談書にハンコを押させてしまうのです。事故から時間がたてばたつほど、被害者は強硬になるし、請求金額も高くなる、ということは世間では一般的常識になっているのです。これは、被害者側がいろいろ研究したり、人から聞いたりして、賠償金の相揚がわかってくるからです。ですから、被害者としては、事故直後に、何もわからないままに示談書にハンコを押してしまう、ということだけは絶対にやらないでください。もちろん加害者側が、おどかしてハンコを押させた(脅迫)とか、だましてハンコを押させた(詐欺)というような場合には、その示談書は取り消すことができますが、しかし、いったんハンコを押してしまうと、これを取り消すということは非常にむずかしいものです。ハンコを押しだのが子供だったとか、示談屋が被害者側のハンコを偽造して示談書を作ってしまった、というような場合なら、この示談書は当然無効になってしまいますが、正常な大人が、示談書にサインしてハンコを押したのに、あとになって、示談屋に脅迫されたとかいっても、なかなか、その言い分はとおるものではありません。ですから、よくわからないままハンコを押すということは非常に危険なことなのです。
 もうひとつの例は、入院や治療が長びいているときには、最終示談をせずに、中途で月々の治療費や生活費だけをもらっておけ、と前にのべましたが、悪質加害者のなかには、示談書にハンコを押せば、治療費を支払ってやる、という条件をつけるのがいるのです。これは、まことにひれつなやりかたですが、時々、耳にすることです。被害者を困らせておいて、それに乗ずるやりかたです。もちろん、示談書の内容が、今後の治療費や休業補償も支払う、正当な慰謝料も支払う、というのであれば、別に問題もありませんが、まず、そんなことはないのです。ですから、こういう示談へのさそいにのってはいけません。一家の主人が、長期間入院し、入院費はたまるし生活費もない、というような場合、その奥さんとしては、多少まとまったお金が欲しくなるでしょうが、しかし、主人の入院がまだどれくらい続くかわからない、という状態のときには、示談書にハンコを押すことはいけません。やはり、示談はあとにして、自賠責保険の請求をするか、仮処分手続きをしてもらうほかはありません。

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