示談と時効の関係

時効という言葉は、誰しも耳にしたことがあると思いますが、この場合、正確には、請求権の消滅時効ということです。
 交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償請求権をもっているわけですが、賠償金を取らずに放っておくと、そのうちにこの請求権が時効にかかってしまい、加害者からお金をとれなくなってしまうので す。どうして、こういう時効制度が作られたのかといいますと、請求権をもっているのにこれを行使しないで眠っている者は保護するに値しない、という考えかたのほかに、事故発生から何年かたつと、証拠物や証人などがなくなってしまって、過失の程度や損害額を証明できなくなってしまう、ということが時効制度の大きな理由です。

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さて、何年で被害者の損害賠償請求権が時効にかかってしまうかというと、三年間です。ただし、保険会社に対する保険金請求権は二年間で時効にかかります。ところで、いつから三年なり二年なりを計算するのか(時効の起算点はいつか)が問題になります。例外についてはつぎにのべますが、原則としては、事故のときから被害者に対しては三年、保険会社に対しては二年とおぼえておいてください。うっかり期日を経過してしまうと大変なことになるので、とにかく、事故から三年と二年、とおぼえていたほうが無難です。
 さて、これに対する例外についてのべましょう。死亡事故については、死亡の時が起算日になるのでとくに問題はおこらないでしょう。傷害事故については問題が多いのです。もし、交通事故にあってから六ヵ月も一年も入院していたらどうなるか。入院費用は通常、一ヵ月ごとに請求されるので、一ヵ月ごとに時効期間が起算されるようにも思われます。そう考えることも不可能ではありません。
 実は、この点に関して、いったい、交通事故による損害賠償というときの損害とはいつ発生するのか、という理論上の大きな問題があるのです。結論的にいうと、事故発生時(受傷時)に損害が発生すると考えたほうが無難であり、その時から時効が進行し始めると思ってください。ただし、ひき逃げ事故などのように加害者不明のときは、加害者を知ったときから時効が進行することになっています。
 ただ、注意すべき点は、第一点は、後遺障害についての損害賠償請求権は後遺障害認定時(後遺症についての医者の診療書の出た日)が時効の起算日になります。通常、後遺障害は受傷後、相当の日時がたってから認定されるものですから、あらかじめ後遺傷害の発生が予想されていたか否かを問わず、後遺症害容認定日から三年と考えられています。
 第二点は、治療中に治療費を加害者からもらったときは、その時に時効は中断しますから、もらったときからさらに三年間は時効にかからないのです。これは、治療費を支払えば、その時に加害者は自分の債務を自認しているし、加害者としても権利の上に眠っていたわけではないことが、はっきりわかるからです。しかも、治療費を加害者からもらえば、その他の休業補償費とか慰謝料等についてもすべて時効の進行は中断されるのです。ですから、被害者としては、途中で加害者から少しずつでも賠償金を取り立てておけば、治療が何年間にわたろうと時効の問題を気にしないでよいのです。実際に、こうしておくことが大切なのです。
 ただ、これに関連して、つぎのことに注意してください。被害者が加害者からお金を受けとるとき加害者に領収書を渡しますが、加害者があとになって、被害者にお金を支払ったことはないと主張したら被害者側には何の証拠書類もないのです。こんな妙なことが実際には起こるのです。ですから、被害者は加害者に領収書を出し、加害者は被害者に支払い証明書を書いてもらうとよいでしょう。
 ただし、加害者が直接、病院に支払ってくれたときは、通常、病院は誰から支払いを受けたと書いてくれるものです。また、加害者が小切手で支払ってくれたときは、そのコピーでもとっておけば足りるでしょう。
 なお、治療費につき、被害者が被害者請求手続きでとったときや労災保険から支払ってもらったときはどうなるかです。これでも時効中断になるとの説もありますが、反対も強いので、やはり時効中断にならないと考えてください。
 ですから、こういうときは、被害者は加害者から「自賠責保険金を被害者請求手続きでとって治療費にあててください」とか「労災保険から治療費をとってください」とかいった依頼書のようなものをとっておけば時効中断の効力が生ずると考えます。
 とにかく、事故から三年近くなったら、一度、専門家に相談して時効の対策を考えておくべきです。
 保険金請求権については、前にのべたとおり二年間で時効になりますが、この起算目についてはいろいろ問題があります。
 まず、自賠責保険(強制保険)については、ごぞんじのごとく、被害者請求手続きと加害者請求手続きとがあります。被害者請求のときは、事故の時から二年間ですが、加害者請求のときは、示談が成立したときから二年間で時効になります。法律的にいうと、加害者が被害者に損害賠償義務を履行したときから、加害者の保険会社への請求権の時効が進行するとされているのですが、これは、現実に加害者が被害者に一部のお金でも支払ったときは、そのときからその一部のお金について時効が始まるのみならず、もし、示談が成立したときは、現実に被害者へ示談金の支払いがなくとも示談成立によって示談金支払い義務が確定しているので、その示談金については示談成立の時から保険会社への請求権の時効が始まるとみられています。
 なお、保険金の場合にも中断ということがありますが、これは損保会社に時効中断の申立書を入れておけばよいので、その点、会社とよく相談してください。

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