運行共用者とは
民法七一五条に使用者責任(雇主の責任)という規定があり、従業員が不法行為(自動車事故も不法行為の一つ)をおかしたときに雇主も責任を負うことになっているのです。ところが、昭和三〇年に自動車損害賠償保障法ができ、この三条に運行供用者という概念を作りました。それは民法の使用者責任の場合には、使用者と従業員という雇傭関係を基本においていたので、どうしても適用範囲がせまくて困ったのです。
そこで、それを拡大するために、ドイツの法律概念をとり入れて運行供用者というものを作ったのですが、いかんせん、従来、日本にはこのような言葉がなかったために裁判所も苦労したのです。
そもそも、運行という言葉ですが、これは自動車を動かしているということよりはずっと広いのです。例示すると、クレーン車がクレーンの作動中にクレーンで人を死傷させたときも運行中とみます。また、トラックの積荷をおろしているとき、荷物を落として人を死傷させたときもやはり運行中の事故とみるのです。そして、運行供用者とは、自動車の運行を支配している者とされています。自動車の所有者は特殊な場合(たとえば車を泥棒に盗まれたとき)を除き、一般には車に対する支配を常にしていると考えられます。
問題になるのは、車に対し所有権も賃借権もない場合です。一例をあげて説明します。A会社(元請会社)が地下鉄を作る工事を請け負い、そして、土砂の運搬をB会社(下請会社)にやらせました。B会社はB所有のトラックを持ち込んで土砂の運搬をやっていたのですが、その運搬中に人を死亡させました。被害者側はA会社を被告として損害賠償請求訴訟をおこしたところ、裁判所はこれを容認したのです。
B会社は本来はA会社とは別個独立の法人ですからA会社が責任を負うことはないのです。しかし、この件で、土砂の捨て場所をA会社が指定していたこと、土砂をトラックに積む場所および捨てる場所でA会社の現場監督者が監督し指示していたことが決定的要因となってA会社の責任が肯定されたのです。これは、とりもなおさず、A会社がB会社のトラックの運行を支配していたとみとめたことです。
なお、この件で、B会社が責任を負うことは当然のことです。しかし、現実にはB会社には資力がなかったので、そこで、被害者はA会社を相手にしたのです。B会社に資力があったらB会社のところで解決したでしょう。これが裁判の裏の現実の姿なのです。
社員のマイカーによる事故の場合、社員のマイカーは本来、会社と関係がないのだから、マイカーで通勤途上に事故を起こしても会社は責任を負わないのが原則です。ただ、そのマイカーを会社の仕事に使っていたとなると問題になるのです。
こういう判例があります。ある保険会社の営業所長個人の自家用車をその営業所の従業員が運転中に人身事故をおこした事件につき、裁判所はその保険会社にも責任を認めた判例があるのです。しかし、この判例の要点は、営業所長のマイカーであっても、営業所の外交や外勤に関する仕事のため、このマイカーを常日頃から使用していたという点にあります。社員のマイカーであったとしても、常日頃から会社の仕事のために使用していたとなると、その会社も責任を負わされるのです。
以上のことから、会社の自動車管理者の立場に立って考えるなら、社員がマイカーを使用している場合、それを社用には絶対に使用させないこと、そして、できるなら会社の駐車場も使用させないことが要点になるでしょう。
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