車両保険の損害処理

 事故通知を受けた保険会社は、披保険自動車の所在、事故状況、損傷状況、損害見込額などを聴取し、被保険自動車の損害立会調査を行います。
 立会調査は修理着工前に行われるのが原則ですが、修理着工前に立会ができない場合は、修理前の損傷状況の写真を撮ってから修理に着工することになっています。修理工場での立会調査はまず事故自動車と被保険自動車の同一性を確認したあと、事故状況と損傷箇所・状況とを照合して、事故と相当因果関係のある損傷か否かを判断し、事故外の修理や便乗修理は除外します。また、事故自動車の損傷箇所・程度を確認し、部品の交換と調整、版金修理、塗装の方法と範囲など修理方法を検討します。修理方法が決まると、部品と工賃に分けて修理費の算定をして修理工場の見積書と照合します。最後に保険会社と修理工場の間の調整によって、妥当な修理費を確認して修理が開始されます。

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 被保険自動車と同一の車種、年式で同損耗度の自動車の市場販売価格相当額、いわゆる時価が保険価額とされています。したがって、実務上は、被保険自動車が契約締結時に初度登録一年未満の新車の場合には、中古車としての市場販売価格が形成されていないため、新車購入価格を基準とし被保険自動車の使用月数、走行数などを参考にした適当な償却額を控除して算定します。中古車で市場販売価格がある場合には、被保険自動車と同一車種で同一の初度登録年月の自動車の市場販売価格を基準とし、被保険自動車の車検満了年月、走行数、使用状況、手入れ整備の状況、いたみ具合などを参考にして時価を算定します。なお、特殊な車で市場販売価格が明らかでない場合には、耐用年数と法定償却を参考にして時価を算定します。
 被保険自動車の損傷が修理できない場合や、修理費が保険価額をこえる場合は、原則として被保険自動車の保険価額が損害額となります。一方、修理が可能で修理費が保険価額未満の場合は、修理費ならびに損害防止費用などの費用の合計額からスクラップ代を差し引いた額が損害額となります。なお、車両価額協定保険特約の対象外車種の場合は、部品交換により被保険自動車全体として価値が増加したときは、その増加額が控除されることは前に説明したとおりです。
 修理費は現在一般に行おれている修理方法により原状を回復するのに要する費用であり、次のような内容になります。なお、原状回復とは社会通念上、合理的な程度において外観および機能の両面において原状に戻すことを意味しています。
 機能的に重要な保安関係部品の損傷は交換によることが多く、一般部品は客観的にみて修理では原状回復ができないとき、および修理するとかえって部品交換よりも高くなるときに部品交換が認められます。部品の価格は通常は各メーカーの純正部品の標準価格が基準となりますが、社外部品、中古部品、再生部品を使用したときは個別に価格を認定することになります。
 工賃は分解、組立、調整、交換、検査、版金、鍍金、熔接、塗装、ガラスなどの作業工賃からなり、副資材、消耗品(塗料、溶剤など)を含んでいますが、通常レバーレート(一時間当たりの標準工賃)に標準作業時間を乗じて算定されます。塗装については、自動車修理業界で一般に行われている塗装(自然乾燥)の工賃が基準となりますが、塗装の範囲は当然のことながら事故部分に関するものに限られます。
 転落事故のときの引き揚げ費用や、自力走行不能の場合の最寄りの修理工場までの牽引費をいいます。
 なお、修理費の見積もりに際しては、事故自動車の構造、補給部品の形態、修理技法をよく理解したうえで、妥当な作業内容による作業時間と、その地域や修理工場の実態に適合した適正なレバーレートを正しく評価すること、部品交換の要否を正しく判断し、適正な部品代を計上すること、が重要とされています。
 全損の場合、車両価額協定保険特約の対象車種の場合は、被保険自動車が契約締結時に初度登録一年未満のときは新価価額(損害発生の地および時において新車価格が著しく低下しているときは現実の再調達価格)、一年以上のときは協定保険価額が支払保険金となります。また、車両価額協定保険特約の対象外車種の場合は、保険価額(時価)が支払保険金となりますが、保険価額が保険金額をこえるときは保険金額が限度となります。ただし、いずれの場合にもスクラップは保険会社の所有に帰しますが、実務上の多くの場合は被保険者が引き取る形がとられています。なお、車両相互の衝突事故で相手方に責任があり、被保険者が損害の一部を回収した場合には、この回収金をまず車両保険で支払われない被保険者の自己負担額に優先充当し、回収金の額が自己負担額を超過するときは、その超過額を保険価額または保険金額から控除して支払われます。
 損害額から免責金額を差し引いた額が支払保険金となりますが、車両価額協定保険特約の対象外車種で一部保険の場合には、その順に比例てん補を適用した額が支払保険金となります。いずれの場合も保険金額が限度となります。
 車両保険金の請求権は事故発生のときに発生しますが、保険金の請求に際しては保険金請求書、交通事故証明書、損傷部分の写真、修理費請求書などの書類を保険会社に提出します。保険会社は支払保険金の算定をして、被保険者または被保険者の支払い指図先(修理工場など)に保険金を支払います。
 保険事故による損害が第三者の加害行為によって生じ、保険会社が先に被保険者に保険金の支払いをした場合は、保険会社は第三者に対して披保険者の有する損害賠償請求権を代位取得し、回収をはかります。
 全損の場合の残存物は、実務上は被保険者が引き取り、その価額を保険金支払いの際に控除する方法がとられていますが、被保険者が残存物を引き取れない事情にあるときは、保険会社がいったん取得したものを売却することになります。
 保険金を支払った保険会社は所有者として、盗難物件の発見を所轄警察署へ依頼します。また、陸運事務所に盗難自動車の所有者名義を保険会社とする移転登録を申請しますが、現実に使用または処分ができないので抹消登録あるいは課税保留申請が行われます。

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