無保険車傷害保険の基本的仕組み

 対人賠償責任保険の付保によって、対人事故の被害者に対する補償の備えが得られることはいうまでもありませんが、いかに高額の保険を付けても自分が被害者となった場合に、相手車が無保険では何の補償も得られないことになります。そこで自家用自動車保険では、他人に対する補償と同時に、自己についてもこのような場合の補償が得られる無保険車傷害保険が自動付帯されています。
 すなわち、無保険の相手自動車の所有、使用、管理に起因して被保険自動車の被保険者が死亡もしくは第一級から第三級の後遺障害を受けたこと(無保険車事故)による被保険者本人またはその父母、配偶者もしくは子の被る損害に対して保険金が支払される仕組みです。この保険による保険金の支払いは、無保険車事故について法律上の損害賠償責任を負担する者(賠償義務者)が存在すること、すなわち保険金請求権者に法律上の損害賠償請求権が発生した場合に限られます。したがって、自損事故保険とは裏表のような関係にあり、傷害保険の形を借りた実損害てん補の保険です。なお、あて逃げ事故のように、賠償義務者が不明の場合でも、あて逃げした者に対して、法律上の損害賠償請求権が発生するので、前記条件は満たされることになります。

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 支払いの対象となる損害は、前述の損害から自賠責保険などで支払われる金額および相手車の対人賠償責任保険の保険金額を控除した残りの部分です。すなわち、相手車が対人賠償責任保険を付保していない場合は、自賠責保険直接の上積み保険となり、付保されている場合は、その保険金額が被保険自動車の保険金額を下回るときのみ、その差額部分について上積みとなります。
 無保険車傷害保険の被保険者は、被保険自動車の正規の乗用車構造装置のある場所に搭乗中の者に限られます。「正規の乗車用構造装置のある場所」「搭乗中の者」の定義は、自損事故保険の場合とまったく同様です。この被保険者は無保険車事故による直接の被害者ですが、約款では保険金請求権者の範囲を、無保険軍事故により損害を被った者とし、次のように定めています。
 被保険者(被保険者が死亡したときはその相続人)、被保険者の父母、配偶者または子(被保険者の被害に基づくこれらの者の固有の慰謝料部分のみ)
 この保険で支払いの対象となるかどうかの最も大きな決め手は、相手車が無保険自動車かどうかという点ですが、約款では次の三つに分類定義しています。
 相手車が一台の場合、相手車が対人賠償責任保険などをまったく付保していない場合。したがって、相手車自体は無保険であっても、運転者が後述の自動車運転者損害賠償責任保険を付保している場合、他車運転危険担保特約が適用される場合などは、無保険自動車にはなりません。
 相手車の対人賠償責任保険などが有効に働かない場合。すなわち、付保されていても免責事由に該当したり、運転者年齢条件や運転者限定特約に違反して免責となる場合は、無保険同様ですので無保険自動車となります。
 相手車の対人賠償責任保険などの保険金額が被保険自動車の無保険車傷害保険の保険金額を下回る場合は、差額部分について無保険同様ですので無保険自動車となります。
 あて逃げなどにより相手車が不明の場合も無保険自動車となります。
 相手車が二台以上の場合は、相手車を一群としてとらえ、それぞれの対人賠償責任保険などの保険金額の合計額が、被保険自動車の保険金額を下回る場合に、それぞれの相手車が無保険自動車となります。
 被保険者の故意によって生じた損害。また、保険金を受け取るべき者(被保険者の相続人、父母、配偶者、子)の故意による損害の場合は、その者の受け取るべき金額については支払われません。
 被保険者の無資格運転、酒酔運転、無断運転中に生じた損害。被保険者の闘争行為、自殺行為または犯罪行為によって生じた損害。このいずれも、当該被保険者の損害(モの父母、配偶者、子の損害を含みます)は対象となりませんが、他の被保険者、たとえば同乗者の損害は支払いの対象となります。
 賠償義務者(加害者)が次の者であるとき。ただし他に賠償義務者がある場合は支払いの対象となります。被保険者の父母、配偶者、子。被保険者の使用者。ただし被保険者がその使用者の業務(家事を除く)に従事中に限ります。
 被保険者の使用者の業務に無保険自動車を使用している他の使用人。ただし被保険者がその使用者の業務に従事中に限ります。
 被保険者の父母、配偶者、子の運転する無保険自動車により損害を被った場合は、他に償義務者があってもいっさい支払いの対象となりません。ただし無保険自動車が二台以上の合で、父母、配偶者、子が運転する無保険自動車があるときは対となります。
 損害が被保険自動車の対人賠償責任保険によっててん補される場合。たとえば、同乗者の損害について被保険自動車の達転者にも責任がある場合は、無保険車傷害保険は適用されません。
 無保険車傷害保険の保険金額は、被保険自動車の対人賠償責任保険の保険金額と同額とされており、したがって対人賠償責任保険の保険金額の増減によって、自動的に増減されることになりますが、独自に増減させることは認められていません。この保険金額も被保険者一名ごとの保険金額であり、一事故当たりの保険金額は設定されません。実際の支払いにあたっては、一名ごとの保険金額の枠内で適用される次の支払限度額を限度とすることになります。
 すなわち、相手車がまったく無保険あるいは保険が有効に働かない場合は、保険証券記載の保険金額がそのまま限度額となり、相手車の保険金額が下回る場合は被保険自動車の保険金額との差額が限度額となります。
 無保険車傷害保険においても、保険契約者または被保険者に事故発生時における損害の防止軽減義務ならびに保険会社に対する事故通知の義務が課せられています。また、他人に損害賠償請求ができる場合には、権利の保全行使に必要な手続きをとること、損害賠償の請求について訴訟を提起しあるいは提起されたときは保険会社に通知することが必要とされています。
 無保険車傷害保険における損害の額は、被保険者、その父母、配偶者、子の披った損害について、賠償義務者が法律上負担すべきと認められる損害賠償責任の額によって定められます。すなわち、実損額をてん補する傷害保険として、損害額の決定は対人事故における損害賠償額の算出と同じ基準によることになります。したがって、これによって算出された損害額は、保険金請求権者と賠償義務者間の判決、示談などによって確定した損害賠償額と理論的には一致するはずです。しかし、この保険では両者間で損害賠償額が確定することを保険金支払いの要件にしていないため、必ずしも一致するとは限らず、約款上も「負担すべきものと認められる損害賠償責任の額」という表現になっています。
 なお、損害額は保険会社と保険金請求権者の協議により、前記基準に従って決められますが、協議が成立しないときは両者で選んだ評価人もしくは裁定人に任せるか、両者間の訴訟などによって定められることになっています。
 支払保険金は被保険者一名ごとに次の算式によりますが、いずれの場合も前記支払限度額が上限になります。
 損害が発生したときは、保険契約者、被保険者の義務とは別に、保険金請求権者にも次のような義務が課せられており、正当な理由なくこれを怠ったときは保険金が支払われません。
 賠償義務者に対して遅滞なく書面で損害賠償の請求をする。賠償義務者の氏名、対人賠償責任保険などの有無、内容、書面で行った損害賠償請求の内容などを保険会社に書面で通知する。
 被保険者の父母、配偶者、子はそれぞれ固有の保険金請求権をもっていますが、いずれも被保険者と特定の関係にあり、また固有の損害である慰謝料は、結局は被保険者一名当たりの総額のなかで認定されることになるので、保険金請求の窓口を一本にしておく必要があります。そのため約款では、保険金の請求は保険金請求権者の代表者を経由して行うよう規定しています。なお、保険金請求権は披保険者が死亡したときまたは後遺障害が生じたときに発生することになっています。
 保険金の支払いを受けた保険金請求権者がさらに第三者に対する損害賠償請求権を行使して利得が生ずるのを防止するため、保険会社がその請求権を代位取得することになっています。通常の傷害保険では保険代位は行われませんが、この保険が実損害てん補の保険であるため、このような規定になっています。

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