搭乗者傷害保険の基本的仕組み
搭乗者傷害保険は自動車保険の分野において、傷害危険を対象とする保険の原型をなすものですが、自動車に搭乗する不特定多数の披保険者を保護する保険として、近来特にその需要が高まりつつあります。自損事故保険や無保険車傷害保険も、この搭乗者傷害保険の仕組みを基盤として創設されたものといえます。
この搭乗者傷害保険は被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により、被保険者が傷害を披ったときに定額の保険金が支払われる保険です。自損事故保険のように「自賠法三条に基づく損害賠償請求権が発生しないこと」という条件は不要で、いわば純然たる傷害保険といえます。なお「運行に起因」「急激」「偶然」「外来」の意味は、すべて自損事故保険の場合と同様です。
また、自家用自動車保険における搭乗者傷害保険は、対人賠償責任保険などとともに基本契約を構成し自動的に付保されますが、一般自動車保険では車両保険、対人、対物賠償責任保険に対する付帯契約として、任意選択により付保される仕組みになっています。
搭乗者傷害保険における被保険者は、被保険自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者となります。したがって、搭乗中であれば不特定多数の者が、誰でも被保険者になることができます。なお「正規の乗車用構造装置のある場所」「搭乗中の者」についても、すべて自損事故保険の場合と同じです。
保険金が支払われない場合、これも自損事故保険の場合と同じですが、ただ一ついわゆるモータービジネス業者が被保険自動車を業務として受託中に被った傷害について、免責事由とはなっていません。したがって、この場合も保険金支払いの対象となる点が異なっています。
支払われる保険金は死亡保険金、医療保険金などに分かれますが、いかなる場合も被保険者一名当たり総額で、保険金額が限度となります。なお、一事故当たりの保険金額の定めはないので、被保険者が複数の場合は、それぞれに一名当たりの保険金額が適用されます。
一方、一般自動車保険の場合は特約による保険なので、契約締結時に被保険者一名当たりの保険金額を約定することになります。いかなる場合も、この保険金額が限度となる点、複数の被保険者にそれぞれ一名当たりの保険金額が適用される点は、自家用自動車保険の場合とまったく同様です。ただし、被保険自動車がバスの場合は、一事故当たりの保険金額を設けて引受がなされることとなっており、したがって一事故当たりの支払保険金の総額は、これを限度とすることになります。
保険金の支払いは事故発生時に損害の防止軽減につとめ、所要事項を直ちに書面により、保険会社に通知しなければならない点など、搭乗者傷害保険においても同様です。
被保険者が傷害の直接の結果として、被害の日から一八〇日以内に死亡したときは、被保険者一名当たりの保険金額が相続人に支払われます。「直接の結果」の意味するところはまったく同じですが、自損事故保険と異なり、被害の日から一八〇日以内の死亡に限定されます。
後遺障害保険金は被保険者に傷害の直接の結果として、被害の日から一八〇日以内に搭乗者傷害保険の後遺障害保険金支払区分表記載の後遺障害が生じたときは、被保険者一名当たりの保険金額に区分表の各号に掲げた比率を乗じた金額が後遺障害保険金として支払われます。同一事故で二つ以上の後遺障害が生じたときはその合計額を支払いますが、上肢および下肢の後遺障害については、合計額が一肢全体を失った場合に比して高額となるケースがあるので、一肢ごとに保険金額の六〇%が限度となります。
なお、被害の日から一八〇日をこえて引き続き治療を要する状態にあるときは、一八〇日の期間の終了前日における医師の診断に基づき後遺障害の程度を決定することになっています。
被保険者が傷害の直接の結果として、生活機能または業務能力の滅失または減少をきたし、かつ 医師の治療を要したときは、平常の生活または業務に従事することができる程度に直った日までの治療日数が支払いの対象となります。
支払われる金額は、病院・診療所に入院した日数に対し、保険金額の一〇〇〇分の一・五、入院しない日数に対し一〇〇〇分の一となっており、いかなる場合も、被害の日から一八〇日が限度となります。なお、支払対象期間中にさらに傷害を被っても、重複して医療保険金が支払われないことは自損事故保険と同様です。
医療保険金については、被保険者が平常の生活もしくは業務に従事することができる程度に直ったとき、または被害の日を含めて一八〇日を経過したときのいずれか早いときに発生し、行使することができることとなっており、自損事故保険とは若干異なっています。
なお、一般自動車保険の場合は、バスについて一事故当たりの保険金額が定められているため、各被保険者の受け取り保険金の額が全部の被保険者の受け取り保険金の額が判明するまで確定しないことがあるので、保険金の請求を保険契約者経由と定め、窓口を一本に絞っています。
被保険者の被った傷害が第三者の不法行為によるものであっても、保険会社は保険金支払いにより、被保険者またはその相続人が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得しないこととなっています。したがって、この場合被保険者は傷害保険金と第三者からの損害賠償金の両方を受け取ることになります。
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