他人の車を借りたときの保険
自動車の貸借が行われたときに、その自動車に付保されている保険がどのような働きをするかは貸主、借主双方にとって大きな問題です。主要な問題点については各種保険の項で一応の説明をしましたが、借主、たとえば友人の車を借りた人、レンタカーを借りた人などの立場からみて、どのようになるかもう一度整理してみます。なお、いずれの保険も貸主の承諾を得ない無断運転の場合には、保険による保護が受けられない仕組みであることはいうまでもありません。
スポンサーリンク 所有者の承諾を得た借主は、「自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供する者」(自賠法二条)すなわち保有者であるので、問題なく自賠責保険の被保険者となることができます。したがって、万一対人事故を起こしても、借りた自動車の自賠責保険を利用することができます。一方、無断運転の場合は、運行供用者として対人事故の責任を負いますが、保有者とならないことが多く、その場合は自賠責保険の被保険者となりません。なお、この場合の被害者が政府の保障事業による保護を受けることは前述のとおりです。
所有者の承諾を得て自動車を使用、管理する借主は、許諾被保険者の地位が与えられ、対人事故によって損害賠償責任を負担した場合は、借りた自動車の対人賠償責任保険による支払いを受けることができます。
保有者として、自賠責保険による支払いがなされない事故について、自損事故保険の支払いを受けることができます。
正規の乗車用構造装具のある場所に搭乗中の者として、これらの保険の適用を受けることができます。
対人賠償責任保険と同様、許諾被保険者の地位が与えられ、対物事故による損害賠償責任の負担について、借りた自動車の対物賠償責任保険による支払いを受けることができます。
所有者の承諾を得た借主の起こした事故についても、被保険者である所有者に対して保険金が支払われます。ただし、借主の故意による事故、無資格運転中または酒酔運転中の事故については、借主に対して保険会社が代位求償することになります。
他人の自動車を運転している間に起こした事故についても、自分の自動車に付保された任意の自動車保険が一定の範囲で適用されることとなっています。他車運転危険担保特約がそれです。
自分の自動車(被保険自動車)が個人所有の自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、自家用軽四輪乗用車で、かつ記名被保険者も個人である場合に限られます。なお、これら三車種であれば、割賦購入車および一年以上の賃借車でもよいことになっています。
この特約で他人の自動車とは、記名被保険者または同居の親族が所有する自動車以外の自動車で、前述同様の三車種を指します。すなわち、記名被保険者または配偶者がこれら三車種の他人の自動車を借りて運転した場合に、この特約が適用されることになります。なお、この特約は臨時に他人の自動車を運転する場合に備えたものですので、他人の自動車であっても、記名被保険者または配偶者が常時使用する自動車は対象外となります。
また、この特約による支払いがなされるのは、対人賠償責任保険、自損事故保険、搭乗者傷害保険、対物賠償責任保険の四つの保険に限られ、無保険車傷害保険および車両保険には適用されません。なお、自賠責保険については、もっぱら他人の自動車に付保された保険が利用されることになります。
記名被保険者または配偶者が他人の自動車を自ら運転中の対人事ついて、自分の自動車の対人賠償責任保険が適用されます。この場合の被保険者は記名被者および配偶者のみであり、いずれかが賠償責任を負った場合に保険金が支払われます。また、特約が適用されるのは自ら運転中に限られ、他人の運転する自動車に同乗中は特約の対象外です。「運転中」には停車中、駐車中は含まれないことになっていますが、信号特ちなど運転席についたままの一時停止は含まれると解釈されています。なお、他人の自動車に対人賠償責任保険が付保されている場合は、その保険の許諾被保険者となるので、対人事故についてはまず他人の自動車の自賠責保険、ついで対人賠償責任保険が適用され、この特約はさらにその上積みとなります。
記名被保険者または配偶者が他人の自動車を自ら運転中の自損事故について、自分の自動車の自損事故保険が適用されます。この場合の被保険者は記名被保険者、父母、配偶者および子であり、他人の自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中に限られます。また特約が適用されるのは、記名被保険者または配偶者が自ら運転中に限られるため、これらの者が他人の運転する自動車に同乗中は対象外です。なお、他人の自動車に付保されている自損事故保険によって保険金が支払われる場合には、この特約では重ねては支払われません。
記名被保険者または配偶者が他人の自動車を自ら運転中の傷害事故について、自分の車の搭乗者傷害保険が適用されます。この場合の被保険者の範囲ならびに他人の運転する自動車に同乗中が対象外になる点は、いずれも自損事故保険と同様です。なお、搭乗者傷害保険の場合は、他人の自動車に付保されている搭乗者傷害保険で保険金が支払われても、この特約で重複して保険金が支払われます。
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