損害保険代理店の実務
損害保険会社は全国各地に店舗を設け営業活動を行っていますが、自動車保険契約の募集にあたって、重要な役割を果たしているのが損害保険代理店です。また、元受収入保険料に占める代理店扱いの割合は、九〇%以上に達し、一般家計保険分野の自動車保険は、そのほとんどが代理店扱いとなっています。したがって、社会のすみずみまで自動車保険を普及し、かつ損害保険事業が健全な発展を遂げるには、損害保険会社ばかりでなく代理店の活動によるところが大きいといえます。
損害保険代理店は損害保険会社の使用人ではなく独立者であり、保険会社の代理人として委託を受けて、保険契約の募集を業とするものでの募集行為は自動車とか電気製品などの有形の商品と異なり、保険会社の将来の給付義を内容とする無形の商品を販売するものだけに、もしその募集方法が不適正であったり商品内容の説明に不足があったりすれば、多数の保険契約者がよい保険サービスが受けられない恐れもあります。このような事態を避け、損害保険の公正な普及をはかるため、昭和二十三年七月いわゆる募集取締法(保険募集の取り締まりに関する法律)が制定公布され現在に至っています。この法律では損害保険代理店に関して、次のような事項が定められています。
損害保険会社との代理店委託契約により代理店となった者は、個人・法人の別なく財務大臣宛登録しなければならず、登録を受けていない者は保険募集をすることはできません。また、募集を行う役員や使用人の氏名と住所も財務大臣に届けることになっています。
このような登録・届出制度は、代理店の実態を十分にとらえ、不正な無登録募集や無届出募集をなくそうとするものです。また、いったん登録された代理店でも、保険料の流用、保険料の不正な割引・制圧しなど、募集に関し著しく不適当な行為をしたものや、主として自己契約を取り扱うものは、直ちに代理店委託契約の解除と登録の抹消が行われます。
損害保険代理店の契約募集行為の内容としては、契約の勧誘、申込書の作成、保険料の算出および領収、領収証の発行などがありますが、契約者保護、公正な代理店間の競争などの立場から、契約の募集・締結に関し種々の禁止規定が定められています。
第一は、不正話法の禁止規定です。たとえば、契約者の判断を誤らせるような不実のことを告げたり、契約条項の重要な事項を告げない行為などがそれにあたります。
第二は、告知義務違反を契約者にすすめる行為の禁止規定です。保険契約者は契約の際、危険測定に関する重要な事項を保険会社に告げなければならないとされていますが、万一このような告知義務違反があると、保険会社は契約の解除、あるいは保険金支払いを拒絶することになります。契約者に不測の不利益を生ぜしめる事態を防止する趣旨です。
第三は、保険料の割引やリベートなど、特別の利益を提供する行為の禁止規定です。これらの行為は一見、契約者にとって利益があるように思われますが、保険料の割引やりベートの提供は、損害率を悪化させて保険会社の健全な経営が阻害され、ひいては保険料率の引き上げをもたらし、大多数の善意の保険契約者に不利益を与えることになります。広い意味での契約者保護、保険会社間の不当・過当競争を防止しようとするものです。
第四は、既存の保険契約を不当に解約させて、新たな保険契約の申込をさせる行為の禁止です。
損害保険代理店は保険契約者から領収した保険料を保管する場合は、自己の財産と明確に区分し、届け出てある損害保険専用口座に預金しなければなりません。この規定は代理店は保険会社の代理人として保険料を領収し、保険会社のために保管しているという立場を表したものです。
代理店は保険会社の使用人ではなく独立の営業者であり、保険会社の代理人として委託を受けて、保険契約の募集を業とするものです。その委託業務の内容は、保険会社との間でとりかわす代理店委託契約書によります。
代理店は保険会社の代理人として、保険契約の締結、保険料の領収、領収証の発行および交付、保険証券の交付、保険の目的の調査などの権限を委託されています。したがって、代理店が保険契約を締結し、保険料を領収したときから、ただちに保険会社の責任が発生します。このような代理店の重い責任の裏付けとして、保険会社への信義誠実が要求されています。すなわち、代理店は募集取締法、損害保険料率算定会、自動車保険料率算定会ならびに保険会社が制定した諸規則、約款、料率、条件その他保険会社が指示する事項を遵守する義務があるばかりでなく、業務上知ることができた事項をみだりに他に公言することも禁じられています。このような遵守義務や秘密保持義務は、損害保険事業の社会性、公共性から要請されるものといえます。その他代理店業務を遂行するために代理店が行う主な事務は次のとおりです。
保険契約の締結、変更、解除につき、会社の定めるところによりただちに報告する。委託業務に関する所定の帳簿を備え、かつ必要事項を明確に記載する。別途保管した保険料は翌月末までに会社に精算する。いわゆる現金代理店の場合は、領収した保険料をその都度ただちに会社に精算する。
一般の代理店は契約者から領収した保険料を所属保険会社もしくは銀行の窓口に持参して、証明書に領収印の押捺を受けて契約者に交付するが、保険会社に一定額の保証金を預託した代理店は、自ら領収印を押捺して証明書を発行する権限が与えられている。
事故の発生を知ったときは遅滞なく状況を会社に報告する。また、被保険者が保険金請求手続きを円滑に行えるよう援助する。
代理店の業務に対する報酬として、一定の代理店手数料が支払われます。代理店に支払われるものは、代理店手数料と保険料領収証に貼付する収入印紙代のみで、その他は、たとえ募集業務に要した必要経費であってもいっさい支給されません。ただ昭和四十八年四月から代理店の募集活動をより活発化させ、保険普及のいっそうの伸展をはかるという見地より、側面的施策として代理店の宣伝用大型看板設置費の一部、および保険証券の郵送料を保険会社が負担できるようになっています。
代理店手数料は保険会社の事業方法書および代理店委託契約書によって、原則として扱い保険料に対する一定割合の手数料率による支払い方法がとられています。手数料率は代理店の資格および保険種目により異なります。
なお、自賠責保険の代理店手数料は契約一件当たり定額で支払われる仕組みになっています。
保険契約を締結するときは、保険申込人から保険の目的、加入希望条件などをくわしく聞き出すとともに、その保険内容を十分説明する必要があります。その説明資料として、保険会社は自動車保険についても「契約のしおり」を作成しています。この契約のしおりには保険契約の重要事項がわかりやすく説明してあり、契約者の保険内容についての理解を深め、誤解による契約後のトラブルを避けようとするものです。
保険契約は諸政契約であり、前述のごとく代理店は保険会社より契約締結権限を与えられていますから、申込人の申込の意思表示に対して、代理店が契約引受の意思表示をすれば保険契約は成立します。申込書はこの契約内容、契約条件などを示す最も重要な書類です。この申込書をもとにして、保険証券、代理店勘定書、統計諸資料、翌年の満期更改申込書などが機械的に作成されますので、申込書には必要記載事項がもれなく、正確に記入される必要があるといえます。
自賠責保険契約の締結は、自動車の登録もしくは車検の手続きと同時になされることが多く、代理店としても契約者による自動車の購入などを早期に把握して準備を整えるのが通常です。
自賠責保険契約の申込を受けたときは、一般の代理店の場合は通常、申込書と複写で自賠責保険証明書用紙に自動車の登録番号、保険期間など所要事項を記入し、領収した保険料を添えて所属保険会社またはもよりの取り扱い銀行に提出します。保険会社または銀行で保険料収納印が押捺された自賠責証明書を契約者に交付して発行手続きを完了します。一方、所属保険会社に一定額の保証金を預託している代理店は、保険会社から貸与された収納印を自ら押捺して、自賠責保険証明書を発行し交付します。
自賠責保険の場合も、保険料は契約締結と同時に全額領収することとたっており、保険料を添えた申込でない場合は、契約の締結を拒否することができます。なお、自賠責保険には保険料分割払いの制度がないことは前にも述べたとおりです。
代理店は保険契約を締結した後、次のような事務処理を行います。
契約原簿の記入、代理店は備えつけの契約原簿にすべての取り扱い契約を記載することになっています。契約原簿は契約状況を把握し、保険会社への保険料の精算を記録するためのものです。乗合代理店とか、二種類以上の保険を取り扱っている代理店の場合は、原則として所属会社別、保険種類別に契約原簿を備え付ける必要があります。
契約原簿の種類として、前述の帳簿形式の他に事務を簡素化するため、次の三つの形式も認められています。
申込書控形式、申込書あるいは承認請求書の代理店用控を取り扱い順序に従って整理する方法。
保険料精算資料形式、保険会社の作成する代理店勘定書をそのまま契約原簿として使用する方法
保険料領収証写形式(伝票形式)、保険料領収時に複写で作成される保険料領収証写を取り扱い順序に従いファイルする方法。
なお、以上のいずれの形式も契約の始期年月日、契約者名、保険料、入金日、精算日の五項目については、必ず記載されることになっています。
前述のように、現金代理店以外の預貯金代理店は、契約者から領収した保険料を遅滞なく銀行、郵便局などの金融機関に設けた口座に預貯金する必要があります。預貯金された保険料は、保険会社に対して精算するとき、解約および異動による返戻金を支払うとき、および預貯金利息を引き出すとき以外は、いかなる場合も引き出すことができない定めになっています。預貯金通帳の名義には、自己の財産と明確に区分するために、専属代理店の場合または乗合代理店で保険会社ごとに別口座とする場合は、「○○保険株式(相互)会社代理店」、また乗合代理店で一括保管する場合は、「損害保険代理店勘定」の文字を入れることになっています。
一方、収支明細表の記入も必要です。これは保険料の領収、返戻保険料の支払い、保険料の精算などの保険料の動きをすべて記録し、保険料の残高や保管状況を常に把握しようとするものです。収支明細表の種類として、帳簿形式(法定様式、代用様式)と伝票形式がありますが、いずれも保険種類、契約者名、保険料(収入、支出)、領収日(返戻日)、預入日(払出ロ)の五項目は必ず記載しなければなりません。また二種類以上の保険を取り扱う代理店および乗合代理店で、別途預貯金を乗合会社ごとに別口座とせず、一括預け入れしている場合は、収支明細表の他に保険料一括保管総合表を作成することになっています。
現金代理店は保険料領収のつど代理店手数料を差し引き、正味保険料に代理店勘定書を添え保険会社に精算します。一方、預貯金代理店は別途預貯金した保険料を一ヵ月ごとに代理店手数料を差し引いて、翌月末日までに代理店勘定書を添えて保険会社に精算します。この場合、翌月末日までに保険会社に着金することが必要で、万一着金が遅れて翌翌月の着金になると、精算状況不良とみなされ代理店手数料の引き下げなどの措置が課せられる仕組みになっています。
保険期間中に契約内容に変更が生じたときは、契約者または被保険直ちに保険会社に通知し、その承認を求める必要があります。もしこの通知を怠ると、損生じても保険金が支払われないケースもあります。
自動車保険では、保険期間の中途における車両の入替、売却、廃車、用途変更、保険金増減、担保種目の追加削除などの変更が、他の保険に比べてはるかに多く発生します。実は保険期間の中途でこのような変更が発生すると、保険契約者または被保険者は直ちに取い代理店に連絡し、代理店は遅滞なく保険会社に対して適切な異動、解約処理をとるよう出ます。すなわち、異動処理が認められる変更の場合には、現存契約の契約内容や契約条の一部について、裏書により異動処理を行います。一方、自動車の売却や廃車の場合には、現存契約のすべての担保種目の効力を、将来に向かって消滅させる契約解除(解約)処理を行います。
自賠責保険については自動車保険のような契約原簿の記載はで、通常は申込書と複写で作成された申込書写を保管することによって、契約内容を把握ことになっています。
また、保険料も証明書の発行と同時に保険会社または銀行の窓口で収納されるので、収支明細表の記載も不要とされています。
代理店は契約原簿、保険証券写、申込書控、自賠責保険中込書写などで自己の取り扱い契約の内容を常に把握しておく必要がありますが、自動車保険では前述のような契約内容の変更や事故が多いので、特にその必要性が高いといえます。
そして、代理店は保険期間終了日の一カ月くらい前には、前述の契約管理資料や保険会社が作成する満期契約継続資料により、契約者に対して契約の終了を連絡するとともに継続をすすめます。自動車保険の継続にあたっては、特に前年度契約における事故の有無、契約内容の変更などを確認し、正しい適用保険料を算出することが必要です。
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