車両保険の基本的仕組み
車両保険は衝突などの偶然な事故によって、被保険自動車自体に生じた損害に対して保険金が支払われる保険です。
まずここで「偶然な事故」とは、保険契約成立の当時において発生するか否か不確定な事故をいいます。約款では衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮と列挙されていますがこれらは偶然な事故の例示にすぎず、したがって列挙されていなくても偶然な事故であれば、すべて支払いの対象となります。いわゆる包括担保方式(オールリスク担保方式)がとられているわけです。一方、自動車の通常の使用により、当然生ずるタイヤの摩耗、部品の消耗、車体の腐食などは偶然な事故とはいえません。
次に、支払いの対象となる損害は事故との間に相当因果関係のあることが必要ですが、あくまでも被保険自動車自体に生じた損害に限られ、代車損害、格落損害などの間接損害は対象外です。なお「代車損害」とは、自動車の損傷を修理中に代替車の借入費用を支払うことによる損害をいい、「格落損害」とは事故による損傷を修理しても、事故前よりも自動車の評価額が低下したことによる損害を指します。
約款では車両保険の被保険者は被保険自動車の所有者であると規定し、所有利益が被保険利益であることを明示しています。したがって、所有権留保条項付で売買された自動車の場合は、所有権者である自動車販売会社が被保険者となります。なお、実務上は一般に車検証上の所有者を被保険自動車の所有者として取り扱っています。
車両保険の対象となる自動車とは、道路運送車両法二条に規定する自動車および原動機付自転車をいい、二輪車、三輪車、軽自動車はもちろんのこと、ブルドーザ、農耕用トラクター、トレーラーなども含まれます。
なお、保険の目的となる被保険自動車の付属品および付属機械装置の範囲は次のとおりです。装飾品であるアクセサリー、車上の身の回り品、荷物、貨物などは被保険自動車に含まれません。
通常の付属品として、ラジオ、時計、ヒーター、クーラー、標準工具、スペアタイヤー本などは通常の付属品とみなされ、保険証券に明記されていなくても被保険自動車に含まれます。
保険証券に明記された付属品として、定着式テレビ、定着式音声装置(アンプ、スピーカー)は一般的なものではないので、通常の付属品とはみなされず、保険証券に明記された場合に限り保険の目的となります。
保険証券に明記された機械装置として、放送車、レントゲン車などに搭載された付属機械装置は自動車本体と区別され、保険証券に明記された場合に限り、保険の目的となります。これらの機械装置については火災、盗難または車両と同時に損害を被ったときに限り、保険金が支払われます。
偶然な事故による損害すべてを対象とする通常の車両保険に対して、限定された損害のみを支払いの対象とする車両危険限定担保特約付の契約方式もあります。これは対象損害を限定することにより、保険契約者の保険料負担を軽減し、車両保険の普及を図ることを狙ったものです。限定担保特約には特約A、Bの二方式があります。
まず特約Aは被保険自動車の火災、爆発、盗難による損害の他騒じょう、労働争議に伴う暴力行為、破壊行為による損害、落書、窓ガラスの破損の損害、飛来中、落下中の他物との衝突による損害(衝突の結果運転を誤り、他車に追突するなどの拡大損害は対象外)、台風、たつ巻、洪水、高潮による損害に限り支払いの対象とし、他物との衝突、接触による損害、被保険自動車自体の転覆、墜落による損害(走行危険)はいっさい対象外としています。
一方、特約BはAと同趣旨で設けられていますが、走行危険についても損害が高額の場合には、支払いの対象としています。すなわち、被保険自動車の他物との衝突、接触、被保険自動車自体の転覆、墜落による損害の額が保険価額の六〇%以上(後述の車両価額協定保険特約による場合は五〇%以上)となる場合は、保険金が支払われます。
車両保険では次の免責事由に該当する場合は、支払いのとなりません。
故意による損害、保険契約者、被保険者、所有権留保条項付売買自動車の買主、もしくはこれらの者の業務に従事中の使用人などの故意による損害は対象外となります。また、これらの者と同居する親族の故意による損害については、被保険者または保険金を受け取るべき者に保険金を取得させる目的があった場合に限り、対象外となります。
戦争、暴動などによる損害、地震、噴火、津波による損害。
昭和五十年二月の約款改訂までは、この他に台風、洪水、高潮なども免責とされていましたが、これらは必ずしも異常危険とはいえず、また対応する保険料の算定も確度が高まってきたので、改訂により免責事由から除外され、支払いの対象とされました。
なお「津波」とは地震津波を指し、山津波および暴風雨による暴風津波、風津波は含まれません。また地震、噴火、津波による損害は割増保険料を前提に、特約によって支払いの対象とすることが可能です。
原子力による損害、これらの随伴事故や、それに伴う秩序の混乱に基づく事故による損害、差し押えなど国、公共団体の公権力の行使による損害。ただし消防、避難に必要な処置で行われた場合は支払いの対象となります。詐欺または横領による損害、航空機、船舶による輸送中の損害。ただし連絡船、フェリーボートによる輸送中は支払対象となります。
被保険自動車に内在する欠陥、腐食、さびなどの自然の消耗、故障損害取りはずされて車上にない部品、付属品、付属機械装置の損害タイヤの損害。ただし火災、盗難による損害および車両と同時に損害を被ったときは支払いの対象となります。
保険契約者、彼保険者などの無資格運転、酒酔運転中に生じた損害。
著しく事故多発の契約や不正請求のあった契約については、雨後の弊害を排除するため保険会社の側から任意に契約を解除することができます。また、契約者側からも任意に契約を解除できることはいうまでもありません。
車両価額協定保険は昭和五十一年一月から発売された商品です。それまでの車両保険はいわゆる時価保険方式を採用し、損害発生の地および時において、被保険自動車と車種、年式、損純度が同じ自動車の市場販売価格相当額を保険価額としていました。このような方式では、保険契約締結時には保険価額と保険金額が一致していても、保険価額が時とともに低下するため、全損時に保険金額を下回る保険価額が支払われるにとどまるケースも生じます。一方、保険金額が保険価額を下回っている場合には、分損時に一部保険による比例てん補となるなど、保険契約者や被保険者の理解が得難い面がありました。そこで、あらかじめ保険契約者と保険会社の間で保険価額を協定する方式である評価済保険の採用が検討され、車両価額協定保険特約が生まれました。
自動車保険の種類と損害/ 自動車保険契約の方式/ 自動車保険の保険料/ 自動車保険の経営指標/ 自賠責保険の成立と概要/ 対人賠償責任保険の基本的仕組み/ 自損事故保険の基本的仕組み/ 無保険車傷害保険の基本的仕組み/ 搭乗者傷害保険の基本的仕組み/ 対物賠償責任保険の基本的仕組み/ 車両保険の基本的仕組み/ 他人の車を借りたときの保険/ 損害保険代理店の実務/ 各保険共通の基礎的実務/ 自賠責保険の損害処理/ 対人賠償責任保険の損害処理/ 自損事故保険の損害処理/ 無保険車傷害保険の損害処理/ 対物賠償責任保険の損害処理/ 車両保険の損害処理/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved