対物賠償責任保険の基本的仕組み
対物賠償責任保険は被保険自動車の所有、使用、管理に起因して他人の財物を滅失、破損または汚損することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険です。すなわち、被保険自動車の所有、使用、管理に起因して他人の財物を滅失、破損または汚損すること(対物事故)とこれに基づいて被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって損害を被ることの二条件が満たされた場合に、保険金が支払われます。
スポンサーリンク 「被保険自動車」の定義および「所有、使用、管理」の意味については、対人賠償責任保険の場合とまったく同じですが、「財物」とは有体物を指し、したがって有体物の滅失、破損、汚損の生じない事故によって他人に損害を与えても、この保険の対象になりません。また、対物事故における「法律上の損害賠償責任」は民法七〇九条(不法行為責任)、同七一五条(使用者責任)、同七一九条(共同不法行為者の責任)など、対物事故によって負担する民事上の損害賠償責任のすべてを含んでいます。
しかし、対人事故における自賠法の、ような特殊な法律の規定はないので、民法の原則に従って損害賠償の請求を行う被害者側が、事故の事実ならびに加害者側の故意または過失を立証することになります。また「賠償責任を負担することによって被る損害」は、被保険者が損害賠償金を支払うことによる損害をいいます。
被保険者は対人賠償責任保険の場合とまったく同様です。
保険金が支払われない場合、第一に、故意によって生じた損害をはじめ、各種免責事由による損害は対人賠償責任保険の場合と同様、てん補の対象となりません。
第二に、次の者の所有、使用、管理する財物の滅失、破損または汚損に対して損害賠償責任を負担したことによる被保険者の損害もてん補されません。
被保険者が財物に関し正当な権利を有する者(たとえば抵当権者)に対して賠償責任を負担した場合でも、財物が記名被保険者の所有、使用、管理する物である限り、支払いの対象となりません。
被保険自動車を運転中の者またはその父母、配偶者、子、被保険者またはその父母、配偶者、子、被保険者の使用者。ただし被保険者が被保険自動車をその使用者の業務に使用しているときに限る。このような損害はいわば企業内の危険であり、通常は使用人に対して損害賠償の請求は行われないと考えられます。
一般自動車保険契約に限り、著しく事故多発の契約や不正請求のあった契約については、爾後の弊害を排除するため、保険会社側から任意に契約を解除することができます。また、契約者側からも任意に契約を解除できることはいうまでもありません。
保険金額と支払限度対物賠償責任保険の保険金額は対人賠償責任保険と異なり、一事故当たりの保険金額として定められ、それが一事故の支払限度額となります。したがって、一事故で多数の被害者がいても、支払額は合計で保険金額が限度となります。
また、約款の規定を被保険者ごとに、個別に適用する点は対人賠償責任保険と同じですが、賠償責任を負担する複数の被保険者ごとに、保険金額が適用されるのではなく、一事故の支払額はあくまで合計で保険金額が限度となります。なお、対物賠償責任保険においては、被害者直接請求制度がないため、一事故当たりの保険金額を設ける仕組みで特に支障はありません。
対物事故が発生したときも、保険契約者または被保険者が損害を防止軽減することが義務づけられています。また保険会社に対する事故通知は、対人賠償責任保険のような六〇日という期限の定めはありませんが、事故後直ちに行われることが求められており、これに違反した場合、保険金が支払われない点は対人賠償責任保険と同じです。
さらに、示談について事前に保険会社の承認を求める義務、訴訟を提起しまたは提起されたときは、遅滞なく保険会社に通知する義務なども、対人賠償責任保険とまったく同じです。
対物賠償責任保険についても、自家用自動車保険の場合は示談交渉などについて、保険会社による協力または援助が行われます。「協力または援助」の内容については、対人賠償責任保険の場合とまったく同様です。なお、対人賠償責任保険と異なり、保険会社が示談交渉や訴訟手続きを行う制度ならびに被害者直接請求制度は取り入れられていません。
対物賠償責任保険の保険金請求権も、被害者に対して負担する損害賠償責任の額が判決、裁判上の和解、調停もしくは書面による合意により確定したときに発生すると規定されていますが、一事故当たりの支払保険金は次の算式により定められます。
損害賠償金を支払ったことにより、代位取得するものの価額を控除する規定は、民法四二二条の規定を受けたものであり、被保険者の不当利得を排除する趣旨です。たとえば、他人の自動車に衝突した対物事故で、相手自動車の価額の全額を賠償したときは、代位取得したその自動車の残存価額を差し引きます。
なお、保険会社の書面による同意を得て支出した訴訟費用、弁護士報酬などの争訟費用、判決による遅延損害金(自家用自動車保険の場合のみ)についても、対人賠償責任保険と同様、保険金額の枠外で支払われる規定となっています。
仮払金および供託金の貸付など、対人賠償責任保険と同様、自家用自動車保険の場合にのみ適用されます。
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