無保険車傷害保険の損害処理
無保険車傷害保険は一般の傷害保険と異なり、相手車が「無保険自動車」であることの確認が必要なこと、損害額の算定は定額ではなく対人事故の損害賠償額の算定方法を用いること、被保険者(被害を受けた本人)のほかに保険金請求権者(被害を受けた本人の父母、配偶者または子)の定めがあることなど、保険金支払い実務はかなり複雑です。
スポンサーリンク 「無保険自動車」の定義については、自動車相互の事故で相手車に対人賠償責任保険などが付保されていなかったり、あるいは付保されていても保険金額が低額であったり、また保険が有効に働かないような場合は、無保険車事故となる可能性があるので、保険契約者、被保険者または保険金請求権者は、被保険者の氏名、年齢、職業、傷害の部位・程度などを保険会社に通知すると同時に、賠償義務者の住所、氏名、連絡先、加害自動車の登録番号、自賠責保険と対人賠償責任保険の契約内容なども連絡します。
通知を受けた保険会社は、通常次のように指示をして事故処理の促進をはかります。
相手方(賠償義務者)などに対して損害賠償請求の意志表示を行う。相手方の自賠責保険によって支払われる金額と対人賠償責任保険の保険金額の合計額を超過する金額で示談する場合には、保険会社と事前に打ち合わせを行う。相手方および第三者から損害賠償額の回収を行った場合には報告する。
なお、被保険者側が相手方と行う示談交渉については、保険会社による示談交渉サービスはありませんが、必要な範囲で助言がなされるのが通常です。
事故発生当初は、事故による損害がこの保険の対象となるかどうか不明な場合が多く、充分な検討が必要とされています。したがって、事故通知のときに充分把握できなかった事実や事故の原因、責任関係についても、必要に応じ調査を行います。
事故により被保険者が死亡し、または後遺障害第一級から第三級に該当することが明らかになったときには、保険金請求権者は保険会社の助言を得て賠償義務者に対する損害賠償の請求ならびに対人賠償責任保険の付保の有無、契約内容の照会を文書で行います。保険会社は賠償義務者からの回答書および保険金請求権者が提出する「無保険自動車の確認書」により、相手車が「無保険自動車」であることを確認し、最終的にてん補責任を確定します。賠償義務者からの回答がない場合や回答に疑義がある場合には、保険会社は別途調査を行ったうえ、てん補責任を確定します。なお、てん補責任確定後、保険金請求権者は損害賠償請求権を保険会社に譲渡する旨、賠償義務者に通知することになっています。
無保険車事故において賠償義務者が法律上負担すべきと認められる損害賠償責任の額は、通常の対人事故の場合と同じ基準によって算定し、被保険者に過失があれば過失相殺が適用されます。したがって無保険車事故における損害額と、保険金請求権者と賠償義務者間の判決、示談などにより確定した損害賠償額とは、理論上は一致することになりますが、実際は保険会社と保険金請求権者との間の協議により決定します。
保険金の請求にあたっては、保険金請求権者の代表者が他の保険金請求権者の委任状を添えて、保険金請求書、対人賠償責任保険の場合と同様の損害額を確認する書類、無保険自動車の確認書、損害賠償請求権譲渡通知書の写などの書類の提出が必要とされています。保険金請求書類が提出されると、保険会社は支払保険金の算出をします。
このようにして算出した無保険車傷害保険金は、被保険者が死亡した場合はその法定相続人およびその父母、配偶者または子に、被保険者に後遺障害が生じた場合は被保険者およびその父母、配偶者または子に支払われます。
なお、保険金請求権者がすでに示談などによって損害賠償額を確定している場合で、損害賠償額がこの保険で算定される損害額より大きい場合はこの保険の損害額が、小さい場合は確定した損害賠償額が支払われることになります。
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