強制保険は被害者から請求できないか

 A子さんの御主人は、印刷会社に勤めていましたが、今月の第一日曜日に子供二人を連れて遊園地に遊びに行きました。
 家族で遊んでいたら工員風の男性が、乱暴にもオートバイを人ごみの中に乗り入れてきました。A子さんのご主人は、そのオートバイをよけそこなって衝突され、路上にはね飛ばされ頭蓋骨骨折で重傷を負い、入院し、二週間後に死亡。相手の工員は病院にも葬式にも一度も顔を見せず、A子さんが損害賠償の請求の手紙を出しても、なんの音沙汰もありません。子供二人 かかえて、その日の生活に困っています。さしあたってどうしたらよいのでしょうか。

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 オートバイを含めて、たいていの自動車は賠償の支払いに備え強制保険がつけられています。正式には自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)と称します。自動車には原則として自賠責保険に強制加入するよう義務づけられているので、一面強制保険と呼ばれるわけです。その車が事故を起こしたら損害保険会社に保険金を請求することになります。
 強制保険も責任保険の一種だから、加害者が被害者に損害賠償金を支払ってから、その支払限度内で保険会社に保険金を請求するのが本来の建前です。
 しかし、この建前をとごと、示談がで きなかったり、加害者の不誠意のため話合いができず、あるいは資力がない場合には、被害者は強制保険金の支払いまでも受けられないことになります。
 自賠法は、この不合理をさけ、被害者を迅速に保護するため、とくに被害者から強制保険金を直接保険会社に請求できるようにしたのです。もちろん加害者からも請求できることは当然です。加害者の場合は、損害金を被害者に支払ったあとです。
 被害者から直接請求する場合には、加害者との間に示談ができていなくても差し支えなく、話合いなどする必要もありません。
 被害者がすでに加害者から賠償金全額を受け取っている場合には、直接請求はできない。また、被害者が損害金の一部 の填補を受けていて、損保会社がその分について加害者請求によって保険金を支払っているときは、その金額をとえる部分しか請求できません。
 反対に、保険会社から保険金の支払いを受けたあとで、損害額がその金額以上にきまったときは、保険金の限度内でその超過分を保険会社に請求できます。損害額が保険金をこえる部分については加害者に請求できるのは当然です。
 保険会社の請求は、二年間内に行わないと時効により無効になります。加害者に対する損害賠償の請求の消滅時効は三年です。
 ところで、被害者が直接保険会社に保険金支払いの請求をするのは「ひき逃げ」など加害者がはっきりしないとか、加害者に誠意がなく、示談の経過も思わしくなく、加害者から損害賠償を受けられないために、やむを得ず請求する場合が多い。しかし、この保険金も請求すれば、すぐに入手できるというものではありません。早くて一か月いまは二か月以上かかることは普通で、政府保障の場合だと一年もかかってやっと被害者の手に渡るということもあります。
 これでは被害者が当座に必要とする治療費にしても、葬儀費用にしても保険金でまかなうことなど不可能です。
 そこで、こうした矛盾を解決するため生まれた制度が「仮渡金」という制度です。これは被害者のみ請求できるものです。
 この仮渡金は保険金の一部を前払いの形で被害者に支払うもので、原則として被害者が請求の手続きをしたその日に受け取れるようになっています。
 仮渡金は被害者の必要度の高いものに対して支払われる性質のものであるから、その対象となるのは、入通院治療費、葬儀費用などである。支払われる金額については、自賠法施行令五条によって定められています。

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