賠償責任を免れるのはどのような場合か

 A運送株式会社の運転手BはA会社の八トン積営業用貨物自動車を運転し、センターラインのある八メートル道路の左側を進行していたところ、反対側から甲が飲酒の上、自家用乗用車を運転し、すれ違いました。その際甲は真夏であったため運転席の窓をあけ、右肘を窓から出し片手運転をしていました。
 その途端、甲の右肘が大型トラックの右側荷台に接触し、右肘を損傷し、治療の結果、右手切断の大手術を受けました。そこで甲はこの交通事故によって受けた損害賠償をA会社に請求したのです。

スポンサーリンク

 自動車事故によって人を負傷、または死亡させた場合に、その自動車の所有者あるいは運転手が、必ずその損害を賠償しなければならないということはありません。
 自動車の所有者(保有者である場合もある)が、人に与えた損害を賠償しなくてよい場合があります。それには自動車損害 賠償保障法(自賠法)の第三条但書に示されている三つの要件が必要です。すなわち自動車の所有者が、「自分にも、運転手にも、この自動車事故についてまったく悪いところはなかったこと」「被害者あるいは他の者が悪かったから起きたこと」「自動車の構造や機能に悪い個所はなかったこと」の三つの事実を証拠だてると、事故についての賠償を支払う責任は負わない。
 これらを法律上、免責要件といいます。
 この実例でA会社が、B運転手はセンターラインの左側を制限時速を遵守して、前方をよく見て進行していて、なんらの落度がなかったこと。この事故は、被害者の甲が飲酒の上、片手運転し右肘を窓の外に出していたため起こったものであること、A会社の自動車の構造にはなんら悪い部分はなかったこと、の三点が立証されそうなケースと思われるため、A会社は甲の蒙った損害を賠償する必要はないと考えられます。
 この事実が立証されたときは、被害者は強制保険の保険金をもらうことはできなくなります。
 免責の判例の主なものを二、三あげてみましょう。
 加害者が、夜の一一時頃、時速四〇キロ、フイト下向の状況でセンターラインの左側部分を進行していたところ、対向してきた被害者が、飲酒の上、前車を追い越すため、右側部分に進入した。そのため加害者は左にハンドルをきると同時に急制動の措置をとったが間に合わず、こ被害者の車両と衝突し、被害者が死亡した。この事実で、加害者に責なしとした(東京地裁、昭和四二・一一・二四)。
 大型バスが時速四〇キロで進行していたところ、対向してきた自転車の一群の 中から一台が急にバスの前方に飛び出し、大型バスの運転手が減速の措置をとったが間に合わず転倒死亡させた事件で、バスの運転手に過失を認めなかった(大阪高裁、昭和三八・四・八)。
 加害車両が交差点で右折するため三〇メートル手前から右折の合図を出し、時速一〇キロに減速して、交差点に進入し右折を開始したところ、後続車が、制限速度をオーバーして、前車を追い越し交差点に進入し、加害車両と衝突し、そのあおりでその車が歩道の人を即死させた事件で、加害車両の免責を認めた(大阪高裁、昭和四二こ・三一判決)。

自賠法とはどのような法律か/ 民法等による損害賠償責任/ 賠償責任を免れるのはどのような場合か/ 自家用車の事故に会社が責任を負う場合/ 臨時雇が起こした事故と会社の責任/ レンタカーによる事故と損害賠償の相手/ 過失の割合は損害賠償にどう影響するか/ 好意同乗者は損害賠償を請求できるか/ 事故による休業補償はどこまでか/ 入院費も払えないときはどうするか/ ダンプカーにはねられたときの賠償は/ 物的損害を与えたときの損害賠償は/ 強制保険は被害者から請求できないか/ 自動車事故で健康保険は使えないか/ 刑事責任を軽減する対策/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク