民法等による損害賠償責任

 自賠法三条を適用できないような事例については、民法の不法行為の諸規定などによって損害賠償責任の有無が判断されます。
 運転者本人の責任、マイカーの運転者は本人が運行供用者なので自賠法三条の責任を負う。しかし、トラックやタクシーの運転者、あるいは会社の運転手など他人に雇われている運転手の場合には、運行供用者責任ではなく、民法七〇九条の一般の不法行為責任が問題になります。一般の不法行為は過失責任の原則に立脚しており、過失の挙証責任は被害者の側にあります。
 物損事故の損害賠償責任、自賠法は人身事故に対してのみ適用されます。トラックがブロック塀をこわしたとか、乗用車同士が衝突してボディーを大破した、というような物損事故の場合には、民法の不法行為責任に基づいて、加害者の損害賠償責任を追及するほかありません。
 道路の設置管理者の責任路面の不良状態、道路の崩壊、落石、橋梁の不良状態などによる交通事故の場合には、民法七一七条の工作物責任または国家賠償法二条の公の営造物責任が問題となります。いずれも、道路等の設置または管理に何らかの欠陥があれば、損害賠償責任を免れません。

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 人身事故の場合の損害賠償額は、つぎのような費目ごとに算定してそれらを合計した金額です。
 積極損害、傷害事故の場合の入院治療費、付添看護費用、義歯、義足等の費用、死亡事故の場合の葬儀費用など、現実に出費した費用は、社会的に相当な範囲内において認められます。親が交通事故によって重傷を負ったため、欧州へ留学のため出かけていた娘が急遽飛行機で帰国した場合には、その航空運賃も請求することができます。墓石や仏壇のような耐久財産で、しかも、日本では家代々の死者をまつるためのものについては、事 故で死亡した本人の霊をとむらうのに社会的に相当な範囲内でのみ、賠償が認められます。
 消極損害(逸失利益)、傷害を負ったことによって稼働能力が将来にわたって減少することが予想される場合には、得べかりし利益(逸夫利益)の賠償が認められます。死亡事故の場合にも、死者本人の得べかりし利益を算定して、それを相続人が相続する、という構成をとります。得べかりし扶養という構成のほうが合理的ですが、わが国の判例は、一貫して相続構成によっています。
 死亡事故の場合の得べかりし利益は、予想される年収入から死者本人の予想生活費を控除した額(年間純収入)を基礎として、中間利息を控除するためホフマン式(単利計算)を用いて行ないます。
 なお、幼児が死亡した場合に、その幼児が一人だちするまでに必要な養育費を控除すべきかどうか、という問題があります。最高裁判例は、控除否定説の立場をとっていますが、下級審判例の中には控除説をとるものがすくなくない。
 慰謝料とは、精神的、肉体的苦痛に対する損害賠償です。最近の集団訴訟においては、逸夫利益を含めた形で慰謝料一本で請求する方式がとられることがめずらしくありません。生命侵害の場合には、死者本人の慰謝料請求権が相続される、とするのが判例です。一定の範囲の近親者(被害者の父母、配偶者、子など)も、固有の慰謝料請求権が認められます。傷害事故の場合には、被害者本人のほか、特別なケースに限って近親者にも慰謝料請求が認められます。
 弁護士費用、認容額の何パーセントという形で、弁護士費用の賠償が認められます。
 過失相殺、被害者側に過失があったときには、その程度に応じて損害賠償額が減額されます。それを過失相殺といいます。過失相殺を適用するためには被害者に事理弁識能力がなくてはいけません。事理弁識能力とは危険から身を守る判断能力であって、五、六歳ごろに備わるものと考えられています。事理弁識能力のない 幼児が被害者になったときには、親の過失をしんしゃくして過失相殺を行ないます。たとえば、危険な道路で小さな子どもを一人遊ばせておいた親には過失があるので、その子どもが被害者となったときには、親の過失を理由にして過失相殺がなされるのです。
 交通事故の加害者は、被害者に対して損害賠償の責任(民事責任)を負うほか、場合によって刑事責任を負い、あるいは行政処分を受けることがあります。
 刑事責任、自動車事故で人を死亡させると、刑法二一一条前段の業務上過失致死罪、負傷させると刑法二一一条後段の業務上過失傷害罪を問われます。このほか、道路交通法上の無免許、ひき逃げ、酒酔いなどに対する罰則が適用される場合には、刑法上の罰と併合して起訴されます。
 行政処分、行政処分は都道府県公安委員会によってなされるもので、交通反則通告制度にもとづく通告処分(反則金の納付)、運転免許の取消し、停止等の行政処分、行政処分を受けた者に対する講習などから成っているます。

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