レンタカーによる事故と損害賠償の相手
九州で大農場を経営しているA氏は、横断歩道を横断中、車にはねられ死亡しました。運転していたのは一九歳の学生で、車は、ドライブクラブから借りていたものです。A氏の遺族は、交通事故の悲劇を金銭に代えて、損害の賠償を請求することになりますが、加害者運転手は、未成年であるため、もちろん財力はありません。
したがって直接の加害者を相手にしても十分な賠償も望めないので、車の所有者であるドライブクラブを相手にできたらと考えています。この場合ドライブクラブも責任があるでしょうか。
ドライブクラブとかレンタカーとかの名称で自動車の賃貸業を営む業者が各地にできています。それにつれレンタカーで事故を起こす件数もうなぎのぼりに多くなってきました。
一般にレンタカーを使用する者は自分で車を所有する資力がないものが多いから、その事故にあった被害者は、レンタカーの貸主が責任を負ってくれるかどうかが、最大の関心事です。
しかし、このドライブクラブの責任を認めるかどうかで学説も判例もたいへんわかれていました。
昭和三九年一二月四日の最高裁判所の判決では、ドライブクラブに賠償の責任がないと言い渡しました。その理由とするところは、ドライブクラブが、いったん車を利用者に貸し渡した場合は、その車の支配力は、ドライブクラブから借受人に完全に移ってしまい、ドライブクラブはそれ以後は、車の運行には、なんらの支配力を及ぼし得ないということと、ドライブクラブが受け取る賃料は、車を賃すことによる対価であって、車そのものを運転することから生ずる利益ではないどの二点を強調しています。
しかし、最高裁の判決があって、その後の地方裁判所、高等裁判所などの下級審の判例の傾向はそれにさからい、ドライブクラブの責任を認めるものがたてつづけに出ていました。
その中の一つ昭和四三年三月二七日の東京高等裁判所の判決の理由を示してみましょう。
その理由とするところは、ドライブクラブが車を利用者に貸して得る賃料は、全体から見れば車の運転による利益に他ならないし、また、貸した車は短期間のうち返却されるもので、貸す場合もいろいろの条件をつけている事情からして、車の運転に対する支配力が完全になくなると見るのは間違いである。したがってドライブクラブを利用者の車の運転につき、利益も支配力も有しているのであるから、事故による損害を弁償する責任があるとしています。
この考え方は、危険な車を貸すことによって利益をあげているドライブクラブに、その車によって被害を生ぜしめた場合に責任をかぶせないのは不合理であるとの報償責任、危険責任の立場を強く見つめているからです。また一方においては、被害者の保護、救済の立場からでもあります。
その後、最高裁も「レンタカー会社は貸与した自動車に対する運行支配および運行利益を有している」とし、自賠法三条の責任を認め、このように解釈することが自動車の運行から生ずる事故の被害者救済を目的とする自賠法の立法趣旨に添うとしました。
自賠法とはどのような法律か/ 民法等による損害賠償責任/ 賠償責任を免れるのはどのような場合か/ 自家用車の事故に会社が責任を負う場合/ 臨時雇が起こした事故と会社の責任/ レンタカーによる事故と損害賠償の相手/ 過失の割合は損害賠償にどう影響するか/ 好意同乗者は損害賠償を請求できるか/ 事故による休業補償はどこまでか/ 入院費も払えないときはどうするか/ ダンプカーにはねられたときの賠償は/ 物的損害を与えたときの損害賠償は/ 強制保険は被害者から請求できないか/ 自動車事故で健康保険は使えないか/ 刑事責任を軽減する対策/
copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved