自家用車の事故に会社が責任を負う場合

 Aさんは、午後六時頃、自分の乗用車を運転して帰宅途中、対向車線を走ってきた乗用車がスリップしてセンターラインを越えAさんの車に衝突し、Aさんは、重傷で入院中です。
 加害者は、薬品会社の営業マンで帰宅途中の事故、車は自己所有のものであって、任意保険には入っていません。加害者個人には、それほどの支払能力は期待できません。この場合、加害者の勤務している会社への賠償請求はできないのでしょうか。

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 会社員が会社所有の車を使用して事故を起こしたり、自己所有の車で完全に自己の私用のために車を運転していて事故を起こしたりした場合の責任関係は明白です。しかし通勤途中や帰宅途中の事故のように両者の中間形態の場合の責任関係は、きわめて微妙です。
 被用者の事故によって会社が責任を負う場合は二つあり、一つはその事故が会社の「事業の執行」に関連したものである場合であり、他の一つは、自動車の運行について、会社側はその運行の支配と利益が帰属している場合です。
 したがって、会社に責任があるか否かを判断するためには、その車両と会社との関係をいろいろと調べてみなければわかりません。Aさんの場合も、会社に責任がある場合と、そうでない場合とが考えられるようです。
 まず第一に、Aさんの勤務には、全く車を使用する必要がなく、また会社の業務には必要であっても、そのための車両は会社で用意してあり、個人の車の使用を認めておらず、全く通勤のためにだけ使用している場合。
 このような場合は、会社に責任をもってもらうことは無理でしょう。会社の業務に全く関係のない車の使用については、会社としては、運行の支配も、運行の利益もないからです。
 第二に、Aさんの車を使用することが、会社の業務の遂行にどうしても必要で、常日頃、会社の業務にも使用している場合。
 こういう場合は会社に責任をとってらえるでしょう。退社時の事の使用も、外観的、客観的にみるかぎり業務執行の一部とみられるかちです。
 第三は、別にAさんの車を会社の業務のために使用することは必要不可欠というわけではありませんが、便宜上、会社の業務のためにも使用させ、会社側も黙認しているような場合。
 このような場合は一概に結論は出せませんが、会社が、ガソリン代を支給していたり、会社の駐車場を使用させるなどの行為があり、会社とその車との組合が強いときは、やはり、会社の責任を認めるべきだと考えられます。
 大阪地方裁判所の昭和四〇年一二月一〇日の判決で、自家用車を運転して帰宅途中に事故を起こした保険会社の営業所長の場合、会社側にも責任を認め、その根拠として、勤務内容に外勤も入っている、会社の業務に個人の車を使用していた事実がある、会社がその車庫を利用させていた、事故発生地は営業所の区域内である、などの点をあげています。
 また、東京地方裁判所の昭和五〇年六月一九日の判決で、被告会社が自動車管理規定を定め、マイカーによる通勤を原則として禁止していたこと、緊急事態の場合は、従業員からマイカーを借り上げていた、という事実の下では、被告会社に運行利益、運行支配はないので、責任はないとしています。
 Aさんの場合も、相手運転手の職種だけでなく、その車と会社の結合の度合いをもう少し調査する必要があるでしょう。

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