好意同乗者は損害賠償を請求できるか
○○交通株式会社の事故係をしているAさんは最近同じような交通事故の相談わ受け弱っていました。
一つは、妻の親戚の事故で、その内容はつぎのようなものです。
○○産業に勤務する運転手のBさんは、通勤用に使用することを許された○○産業の車に乗って、居酒屋に行き、友人のC氏と飲酒したうえ、外で飲もうということになり、C氏を同乗させて、この車を運転中に事故を起こし、C氏に負傷させたというものです。
もう一つは、同僚の妹の件です。D子さんは、事故発生の一週間前に、学校時代の友人Eさんから喫茶店で、Fさんを紹介され、その夜、Fさん所有の車に同乗してドライブを楽しみました。それから数日の後、Fさんとの約束で、深夜ドライブにいきました。運転資格のあるDさんは、Fさんの八〇キロ近い速度の危険な運転を止めようともしなかった。Fさんは、その結果、車を道路左側に乗り上げて横転させ、Dさんは脳内出血、頭部挫傷の傷を負い、翌日死亡したというものです。
Aさんはどういう返事をしていいか困りました。
自動車損害賠償保障法三条は、自動車の運行供用者(所有者、賃貸人など)は他人の生命身体を害したことによる損害を賠償すべきことを定めるのみで、本問の場合のような好意同乗者についての特別な規定はおいていません。
そこで、判例の多くは好意同乗者もここでいう「他人」に当たるとし賠償請求を認めており、この立場からは、C氏の○○産業に対する賠償請求を是認することになります。しかしこれと同様の事件を扱った名古屋地裁は「運転者乙の運転行為は甲会社のためのものでないことは明らかで、甲会社の運行支配、運行利益を逸脱したものであることは、同乗した段階で知り、少なくとも承知し得ぺき事情にあった」として、丙は「他人」に当たらないとし、丙の甲会社に対する賠償請求を否定しました。
最高裁判所の昭和四九年一二月一六日の判決は、被用者による無断運転が禁ぜられていることを知りながら、被用者をそそのかして無断運転をさせ、これに同乗した者に対する会社の責任が問題となった事案につき、会社は自賠法三条の責任を負わないとして好意同乗者に対する賠償責任を否定しています。
C氏のような場合には、考え方の相違や当時の状況によってここに述べたとおり、認めたり認めなかったりすることりなります。
では好意同乗者の賠償請求が認められる場合にどの程度の賠償が認められるか問題となります。
第一に、好意同乗者に過失が認められれば、その過失の割合により賠償額は減額される(過失相殺)。同乗者が運転者の酒酔いを知りながら乗ったり、第一種原動機付自転車に同乗したり、運転者の運転行為を妨害する行為をしたり、発車しようとしているのにとび乗ったりすることは危険なことであるから過失ありとされます。
ところで、このように直接に危険性のないような場合にも過失に準じて過失相殺されるとした注目すべき判決があります。
その判決は、Dさんの場合に該当する
といえます。判決は、同乗者のA女に「事故発生の危険性につながる生活行動ないし場をみすがら選んだ点に社会一般の若い女性として節度の標準を逸脱した事情が認められ、損害発生の潜在的要因を問われてよく、また全額の請求が公平を失するといってよいから被害者の過失に準ずるものとして過失相殺する」と述べている。若き女性よ、気を付けよということでしょう。
第二に好意同乗者にここに述べた過失ないし過失に準ずるものがない場合に、ただで単に乗せてもらっていながら発生した損害全部を賠償せよというのはおかしくはないかが問題となっています。この疑問はちっともで、ただで乗せてもらったという事情を、慰謝料の算出に当たり斟酌されます。
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