自賠法とはどのような法律か

 昭和三〇年七月に制定された自賠法は、自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することを目的としています。
 その法律の最も基本的な条文は第三条です。そこに「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」の重い責任(過失の挙証責任が被告側に転換された責任です。完全な無過失責任ではないが、実際にはそれに近い役割を果たしている)が規定されているのです。すなわち「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない」としています。
 第五条以下は、自動車損害賠償責任保険について規定する。特に第五条は重要で、そこでは、自動車は自賠責保険の契約が締結されていなければ運行の用に供してはならない、と規定しています。強制的保険であることを明言しているのです。
 この自賠責保険については、一般の任意保険とは異なり、被害者から保険会社に対する直接の保険金請求権が認められています。
 ひき逃げ事故のように加害自動車の保有者が明らかでないため被害者が損害賠償の請求をすることができないときとか、保険に入っていない者が損害賠償責任を負うときに備えて、政府の自動車損害賠償保障事業の制度が設けられています。その財源は保険料の一部をプールしたものです。

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 では自賠法三条の運行供用者責任は、どのような場合に発生するのでしょうか。
 自己のために自動車を運行の用に供する者であること、事故をおこした自動車を直接運転していなかった者でも運行供用者責任を負わなければならないことがあります。たとえば、同居している息子所有の自動車によって人をひき殺してしまった場合には、親も運行供用者責任を負う、とした判例があります。要するに、事故をおこした自動車の運行に対して支配、監督を及ぼすべき立場にある者とか、その自動車の運行によって利益を得る立場にある者は、運行供用者責任を負わなければなりません。逆に、トラックやタクシーの運転手のように、会社に雇われて自動車を運転している者は、自己のためにトラックやタクシーを運行しているわけではない(会社のために運転している)から、運行供用者責任を負わないのです。そのような運転手については、民法七〇九条の一般の不法行為責任問題になるにとどまります。運行供用者責任を負うかどうか判例上問題となった事例をいくつかの類型に分けて要約してみよう。
 無断運転、A所有の自動車をBが無断運転して人身事故をおこせば、AもBも運行供用者です。
 泥棒運転、A所有車をBがぬすんで運転中人身事故をおこした場合、Aに管理上の過失があればAも運行供用者責任を負う。
 ファミリーカー、家族が共用している自動車については、所有名義がだれであれ、その主人が責任を負わなければならない。
 車の貸し借り、Aが友人Bに自動車を一時貸したところ、Bが人身事故をおこした、というような場合には、Bはもちろんのこと、Aもまた運行供用者責任を負わなければなりません。
 レンタカーについては、借りた者はもちろん、レンタカー会社にも運行供用者責任が発生します。
 名義貸し、AがBに自動車の名義を貸した場合については、闇運送の目的とか、強制執行の免脱といった実質的な関係があれば、名義貸人も運行供用者責任を負わなければなりません。それに対して、AがBに車を譲渡したが、都合で名義の書換手続きがおくれたというような単なる名義残りの場合には、名義人には運行供用者責任は生じません。
 元請負人、下請負人がその所有自動車によって人身事故をおこした場合、実質的関係によっては元請負人に運行供用者責任が生じることがあります。
 車持ち社員、会社の従業員がマイカーを会社の業務に使っていて人身事故をおこした場合には、会社に運行供用者責任が認められることがあります。
 他人の生命・身体を害したこと、自賠法は自損事故は救済の対象としていません。したがって、オーナードライバーがトンネル内でトラックに追突して、運悪く焼死したとしても、ドライバー本人には自賠責保険金はおりません。あくまでも、運行供 用者にとって他人でなければならないのです。他人かどうかをめぐって争われた裏側には、次のような類型があります。
 トラックの交替運転手や助手はどうか 判例は「他人とは自己のために自動車を運行の用に供する者ならびに当該自動車の運転者もしくは運転補助者を除く、それ以外の者をいう」としています。したがって運転または補助の業務を離脱していれば、それらの者は他人として保護されます。
 無償同乗者(好意同乗者)好意で乗せてもらった者は他人として保護されます。
 同乗した会社の上司、上司の運行支配が、直接的、顕在的、具体的である場合には、他人であることを主張できないとした判例があります。
 近親者、夫の運転する自動車に同乗した妻は、他人として保護されます。同乗した子どもも同様に解されます。
 免責事由が立証されないこと、免責事由の挙証責任は、被告側にあります。実際の判例をみると、被害車の明らかな無謀運転とみられるようなケースにおいては、免責が認められる傾向にあります。いずれも、いわゆる信頼の原則が適用できるような場合です。

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