不当な交通反則金や略式命令を受けた時はどうしたらよいか
警官が現場で、反則金を支払えといって渡そうとする書類は、三枚あります。それは「交通反則告知書・免許証保管証」と書かれた水色の青キップ (交通キップ) と「告知報告書(交通事件原票)」と書かれた黄色の紙、そして「納付書・領収証書」と書かれた三枚つづりの用紙です。
まず第一の「交通反則告知書・免許証保管証」は、警官が反則者であると認知した者に対し、反則行為となるべき事実の要旨、反則行為の種別、反則金通告をうけるための出頭の期日および場所を記載して手渡す告知書のことを言います。
次の「告知報告書(交通事件原票)」とは現場の警官が警視総監その他の道府県の警察本部長に対し
て、反則事件の現認と反則者に対して告知をしたことを報告するための文書です。
最後の「納付書・領収証書」は、いわゆる「仮納付書」といわれるもので、仮納付したときに、領収印を押してもらうためのものです。
道路交通法第一ー六条第一項は、警察官は反則者があると認めるときは、すみやかに反則者に一定の要件を記載した書面で、その旨告知しなければならないとされています。そして、同法第一ニ六条第三項によると、警官が現場で告知したときには、警視総監その他の道府県警察本部長に報告をしなければなりません。その上で、警視総監その他道府県警察本部長が、反則行為があったと認めるときに、正式に運転者に対して反則金の納付を書面で通告することになります。
ところで、ここで大切なことは、反則金をとりたてるためには、現場における警官による告知、各警察本部長への報告、各警察本部長による反則金納付の通告(いずれも文書によらなければ無効)のすべてが完備しなければならないということです。そして、ここにいう告知とは、反則者とされている人に、現実に青キップを受領させることだとされていることです。したがって、反則をしたとされている人が、もし現場で交通キップの受領を拒否するならば、警察では、法律上、反則金の支払いを命ずることが不可能になるのです。
なお、道交法第一二九条は、仮納付制度を作り、現場で告知を受けた日の翌日から七日以内に、警察官のきめた金額を仮納付できると定め、正式の警察本部長による通告を省略し、その代わり通告センターに掲示する公示という略式な方法で通告に代え、もし現場の警官の決めた反則金が高すぎていたら、返還するということになっております。
反則金不納付キップとは、決して反則金を納めたくない人のためのものではなく、警察が何としても罰金をとりたてようと考えたときに使われるものです。その内容は、供述調書(自白調書)であると同時に、略式裁判や即決裁判についての同意書(申述書)であって、運転者が自己の有罪を認めるために書かされる書類です。
すでに述べましたように、反則金をとりたてるためには、警官が現場で告知書を運転者に渡し、運転者に受領させることが、法律上必要不可欠の要件です。もし運転者が交通キップの受領を拒否するならば、反則金を納付させる法律的手段はまったくありません。運転者がこの交通キップを現場で受け取るかどうかは、運転者のまったくの自由です。警官が指摘する反則行為(道交法違反の行為)があってもなくても、交通キップを受け取ろうが受け取るまいが、それはまったく自由であるわけです。それは、反則金は従来の交通違反の罰金をより簡単にとりたてるための制度であり、一方、日本国憲法は「何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。」と定めており、反則金(実質は罰金)を支払わねばならない犯罪を自分が行なったのか否かについて、裁判を受ける権利と自由が認められていることに基づいているのです。現に、この交通キップの受領や反則金のとりたてを強制することができることをうかがわせる法律上の規定はまったく存在しておりません。
このように、不当な反則金を支払わないためには、現場で、青キップを受け取らないということが最も大切です。
ところで、青キップを受け取った場合でも、仮納付をする義務はまったくありません。仮納付は、運転者が、自分の便利なときには、仮納付をしても良いというだけのものであって、いっさい強制されないものだからです。そして、仮納付もせず、通告センターに指定日に出頭もしないときには、正式の通告書が郵送されてくることになります。
ところで、道交法第二一八条第一項は、この通告を受け取った日の翌日から起算して一〇日以内に反則金を納めなければならないと定めていますが、これは反則金納付の義務を定めたものではありません。通告書を受け取った日から一一日以内に反則金を納めさえすれば、実際に道交法違反の罪を犯していても、刑事事件として裁判にかけられることはないというにすぎません。ですから、運転者の自由な意思で、反則金を納めるかどうかを決定することができるのです。
ところで、従来から使われてきた交通キップ(赤キップ)や反則金制度ができてから作られた反則金不納付キップは、それ自体が運転者自らに有罪を認めさせ、略式命令や即決裁判に同意させるための書類です。したがって、それらに署名捺印した場合には、略式命令や即決裁判で罰金刑を科されることになるでしょう。結局、それをさけるには、一切のキップ類に署名捺印をしないことが最良の策であると言えるでしょう。
略式裁判の請求に同意をすると、間もなく簡易裁判所から「略式命令」という罰金刑を科する裁判書類が届きます。これは、警察や検察官の一方的主張をう呑みにした裁判です。ですから、これに不服であるという場合には、この書類を受け取ってから一四日の間に略式命令を出した簡易裁判所に「正式裁判」を求める申立書を提出することによって、この略式裁判は失効し、改めて正式の裁判が開かれることになります。
全自交、全自運など、自動車交通産業の労働組合では、不当な反則金や略式命令、即決裁判に泣き寝入りしないため、正式裁判にもちこまれることをおそれずに、「納得のいかない書面には署名押印しない」「不当な反則金は払わない」「略式・即決には同意しない」という運動に取り組み、大きな成果をあげています。
道路・河川などの欠陥による事故の損害賠償の請求/ 事故を起こした運転手が無資力のときの損害賠償の請求/ 不当な交通反則金や略式命令を受けた時はどうしたらよいか/
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